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チャプター 1 さようなら人生、こんにちはぞうさんボディー

この日の朝も僕は、耳元で騒ぎ立てる目覚まし時計に起こされる。

時刻は七時。今日も時間どおりだ。

簡単に朝食を済ませて着替えた僕は、腕時計に目をやる。

朝七時三十分、これも時間どおり。

本当はもう少しゆっくり出ても大学に間に合うのだけど、僕には唯一無二の楽しみがあった。

駅へ向かう途中、小学校の通学路を通りかかる。  すると今日も一列で登校する小学生たちが、後ろから僕に向かって天真爛漫な挨拶をしてくれた。

「おにーさんおはよーございまーす!」 「おはよう」

元気な声での挨拶に、僕も笑顔で振り向いて返事をする。

やっぱり小学生は元気で可愛いなぁ。特に小さい女の子、幼女がいい。

小さな背中に背負った、真っ赤につやめくランドセル。  化粧なんてなくても眩しいくらいに輝く、幼女の笑顔。  十人十色の髪型で、世の汚れを知らない純粋な黒髪。  ハキハキと繰り出される、未発育ながらも健康的な肢体。

まさに幼女は僕にとって最高の癒しであり極上の宝だね。

同じ方向に並列して歩く健気な小学生たちに、僕の顔も自然とニンマリしてしまう。

『あのお兄さん、若いのにいつも子どもたちと挨拶してくれて感心よね~』

『ほんと。彼みたいな若者がたくさんいるといいのに』

周りから耳に届くお母さん方の声、ご評価ありがとうございます。

この健全な関係を築くのに欠かせないモットーが、僕の中にはある。

それはYESロリータNOタッチ。

どんなに可愛くても小学生、特に幼女には触れてはいけない。

それを犯したら最後、優しいお兄さんから不審者もしくは犯罪者に格下げされてしまうからだ。

だから僕は可愛い小学生たちから少し距離を置いて見守る。  それが正しい付き合い方だと思うから。

ともあれYESロリータNOタッチを徹底したおかげで、僕は近所の優しいお兄さんとして小学生たちと接することができている。

たとえ触れ合うことができなくても、このほのぼのとした日常がいつまでも続くといいな。

だけどその平和な時間は突如破られることになってしまう。

交差点の横断歩道を横切ろうとしたときだった、一台の車が猛スピードで突っ込もうとしてきたのだ。

このままだと先頭の女の子が危ない!

そう直感した僕は反射的に先頭の女の子を突き飛ばし、代わりに前へ躍り出る。

その直後、とてつもない衝撃と共に僕の身体は宙を舞った。

ああ、純粋無垢な小学生たちに凄惨なところを見せちゃったな……。  恐怖に震える女の子の姿が目に浮かぶよ。

車相手でもビクともしないくらい大きくて強い身体だったら、こんなことにならなかったのかな……?

刹那、僕の意識はそこで途絶えた。

暑い。まるで夏のようだ。

周囲からは鳥や動物たちのけたたましい声が耳に入ってくる。

あれ、僕って死んだんじゃ……?

真っ暗だった視界が開けると、そこは見たことのない形をした木の葉が生い茂る謎の場所だった。

ここは森なのかな……?  天国ではなさそうだけど。

手足で踏みしめる地面は赤くて少しぬかるんでいる。

あれ、手足で……?

足元に意識を向けると、丸太のように太い手足が目に飛び込む。

これはどう見ても人間の手足じゃない。  だけどなんでそんなのが僕の視界に?

一度疑問を感じると、自分の感覚全てに違和感を覚え始めた。

隣の木に並ぶ、異様に高い目線。  そして鼻辺りにぶら下がる、重たい感覚。

試しにその感覚に意識を向けてみると、僕の目の前に太くて長いモノがもたげてきた。

しわだらけで先っぽに穴が二つ開いている。  まるでゾウの鼻みたいだ。

息をするごとにその穴から空気が出てる、ってことはこれが僕の鼻!?

なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。  今の僕って一体何者なんだ。

恐る恐る足元の水たまりをのぞき込むと、そこに映り込んでいたのは紛れもなくゾウの顔だった。

もしかして僕、ゾウになってしまったの……!?

「ブロロロロロロ……」

信じられない光景を目の当たりにした驚きで、顔の横に付いた大きな耳がパタパタはためく。

そして僕は叫び声を上げて森の中をがむしゃらに駆け出してしまう。

「パァン! プオオオオオオン!!」

ここまで来ると自分の声までゾウであることにもはや驚くこともない。

バシャバシャと地面の水をはねあげて。  落ちていた枝も軽く踏み折り。

僕は見知らぬ森を猛進する。

なんで、なんで今の僕はゾウなんだーーーーーーーーー!!

そのまま直進すると、僕は小さな泉に飛び込んでしまう。

盛大に飛び散る水しぶき。

うわ、冷たいっ。

思わぬヒンヤリとした感覚に、僕の頭も少し冷えた気がした。

おちつけ、僕。  あの時僕は小学生の女の子を庇って車にはねられたんだ。

そして気がつくとゾウの身体になっていた。

思えば死ぬ間際に大きくて強い身体だったら、なんて願った気がする。

まさかとは思うけど、それで地上最大のゾウとして生き返ったってこと?

だけどそれにしたってゾウはそのまんますぎでしょ!?

――もういいや。ひとまず人間としての僕は死んだ、今のゾウとしての身体を受け入れるしかない。

その結論に達した僕は、鼻で泉の水を吸い上げて、自分の頭にかけた。

やっぱり冷たいっ。

泉からあがると、僕のお腹から重低音の腹の虫が鳴り響く。

お腹空いた。

あれ、ゾウって草食だよね。  草とか食べればいいの?

何気なく鼻で地面をさすってみると、赤色の葉っぱをした草がある。

これ、食べられるのかな?  なんか梅干しのような酸っぱい匂いがするんだけど。

試しに鼻で草を摘んで口に運ぶと、口の中が刺激的な酸味でいっぱいになった。

「プオン!?」

酸っぱ!  何これ、梅干しを百倍くらい濃縮したような酸っぱさだよ!!

すぐに葉っぱを吐き出した僕は、続いて頭上の木の葉に鼻を伸ばした。

これはミントのような爽やかな香りがするぞう。

鼻で枝ごと巻き取って口に入れるとあら不思議、匂いどおりのミント味が口いっぱいに広がるじゃないですか。

そうか。ゾウの鼻は匂いでだいたい味が分かるんだ!

それに気づいた僕は、食べられるものを調べるべく森を探検することにした。