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第3章

Teruko POV:

暗闇から飛び出してきた二つの人影は, 私を避けようともせず, そのまま私の体にぶつかってきた.

私はよろける間もなく, 地面に転倒した.

その衝撃で, 手に持っていたスマートフォンが宙を舞い, アスファルトに叩きつけられた.

まだ通話中だった藤原との電話から, 甲高い女性の悲鳴がはっきりと聞こえた.

「定九郎さん, 怖い! 輝子さんが追いかけてくる! 」

それは, 安岡芽枝の声だった.

彼女は藤原の腕に縋りつき, 震える声で訴えている.

「私, 輝子さんに何かされたらどうしよう…定九郎さん, 私を見捨てないで…」

その声には, 不安と同時に, 巧妙な計算が隠されているように聞こえた.

私は一瞬で理解した.

全てが仕組まれていたのだ.

結婚申請書を提出する日.

芽枝からのタイミングの良い電話.

そして, 今, この場所での偶然の遭遇.

これら全てが, 藤原が私を完全に切り捨てるための, 周到な計画だったのだ.

私はこの五年間, 彼らの舞台で愚かな脇役を演じていた.

私の存在は, 彼らにとっては邪魔でしかなかったのだ.

電話の向こうでは, 藤原が芽枝を優しく抱きしめ, 耳元で囁いていた.

「大丈夫だ, 芽枝. 僕はもう輝子とは終わったんだ. 僕たちは最初から合わなかった. 君を傷つけるようなことはさせない」

彼の声は, あの朝, 婚姻届の前に私に囁いた言葉と同じくらい甘い響きを持っていた.

私の心は, 冷たい鉄塊のように硬く凍りついた.

私は決して, 誰かの被害者にはならない.

私は決して, 彼らに屈しない.

脳裏に, 藤原が私を口説いた時の言葉がフラッシュバックする.

「輝子, 君がいないと生きていけない」

彼は私を繋ぎ止めるために, 膝までついて懇願したのだ.

そして, 婚約指輪を差し出し, 「僕の妻になってほしい」と誓った.

あの頃の甘い言葉は, 全てが嘘だったのか.

私が彼に捧げた青春と愛情は, ただ彼らの都合の良い物語の道具にされていただけなのだろうか.

私は体が寒さに震えるのを感じた.

雨はさらに激しくなり, 私の体を冷やしていく.

その時, ハルが低い声で唸り始めた.

私の足元に寄り添っていたハルが, 暗闇の奥を警戒している.

私は振り返り, 暗闇の中にじっと目を凝らした.

人影が, 私たちに向かってゆっくりと近づいてくる.

私は冷たい汗が背中を伝うのを感じた.

恐怖で, 心臓が大きく脈打つ.

私は震える手で, ポケットからスマートフォンを取り出した.

画面はひび割れていたが, まだ辛うじて動く.

私は藤原の番号を呼び出そうとした.

繋がらない.

彼の声を聞くのは, もう無理なのだ.

私は必死でタクシーアプリを開こうとしたが, 指が震えて上手く操作できない.

背後から, 荒々しい声が聞こえた.

「おい, そこの女! どこへ行くんだ? 」

私は振り返る間もなく, 強い力で肩を掴まれた.

「やめて! 離して! 」

私は悲鳴を上げたが, 声は雨音にかき消された.

私は必死でスマートフォンを耳に当てたまま, 誰かに助けを求めようとした.

だが, 藤原の電話からは, 芽枝の甘えるような声しか聞こえない.

「このクソ女, 金目のものを持ってるだろう. 出せ! 」

男たちの手が, 私のバッグに伸びる.

私は必死で抵抗したが, 彼の体重が私の上にのしかかり, 身動きが取れない.

その時, ハルが唸り声を上げ, 男に向かって飛びかかった.

「ガウッ! 」

「このクソ犬が! 」

男はハルを乱暴に蹴り飛ばした.

ハルは甲高い悲鳴を上げ, 地面に倒れ込んだ.

「ハル! やめて! 」

私は悲痛な叫びを上げた.

男は私の叫びを無視し, ハルをさらに何度も蹴り続けた.

ハルは, もう動かなくなった.

私の全身から力が抜け落ちた.

私の大切なハルが, 目の前で….

私は魂が抜けたように, ただ男たちに抵抗することもなく, その場に崩れ落ちた.

男は私の髪を掴み, 何度も何度も頭を地面に打ち付けた.

痛みで, 視界が真っ白になった.

私は朦朧とした意識の中で, まだ繋がっている藤原の電話の向こうに向かって, 最後の力を振り絞って囁いた.

「定九郎…助けて…」

だが, 電話の向こうから聞こえてきたのは, 藤原の冷たい声だった.

「おい, 輝子. お前, いつまでも僕に縋りつくつもりか? いい加減にしろよ. 僕が助けに行く義理などない」

そして, 誰かの冷笑が聞こえた.

「あはは! こんな雨の中, まだ男に縋ってるのかよ, みっともない女」

それは, 藤原の友人, 桜田の声だった.

彼らの声は, 私の意識が完全に闇に沈む直前まで, 私の耳にまとわりついて離れなかった.

現在読めるのはここまでです。

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全12章

  1. 第1章第1章
  2. 第2章第2章
  3. 第3章第3章

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