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契約の花嫁:ソーンの贖罪

契約の花嫁:ソーンの贖罪

  • 全10章
  • 3章読めます

あらすじ

消毒液の匂いが充満する無菌の静寂のなか、私は横たわっていた。

その腕に抱くことさえ叶わなかった、我が子を悼みながら。

誰もがこれを悲劇的な事故だと言った。

足を滑らせて、転んだだけだと。

でも、私には分かっていた。夫に突き飛ばされた、その真実を。

ようやく健司が面会にやってきた。

彼が持ってきたのは花束ではなく、アタッシュケースだった。

中に入っていたのは、離婚届と秘密保持契約書。

彼は冷静に告げた。彼の愛人――私の友人だった女が、妊娠したのだと。

これからは、そっちが彼の「本当の家族」になる。だから、いかなる「不愉快」もあってはならない、と。

彼は、私が精神的に不安定で危険な人間であるかのように捏造した精神鑑定書を使い、私を脅した。

「サインしろ、詩織」

彼の声には、何の感情もこもっていなかった。

「さもないと、この快適な病室から、もっと…警備の厳重な施設に移ってもらうことになる。長期療養のための施設にな」

私が愛した男の顔に、怪物の姿が重なった。

これは悲劇なんかじゃない。

私の人生そのものを乗っ取る、冷酷な企業買収だ。

私が子供を失っている間に、彼は弁護士と会っていたのだ。

私は悲しみに暮れる妻ではなく、処理されるべき負債であり、断ち切られるべき厄介事だった。

私は、完全に、どうしようもなく、閉じ込められていた。

絶望が私を飲み込もうとした、その時。

両親が生前お世話になっていた弁護士が、過去からの亡霊のように現れた。

彼女は重厚で、装飾的な鍵を私の手のひらに押し付けた。

「あなたのご両親が、逃げ道を遺してくださったのよ」

彼女は決意に満ちた目で、そう囁いた。

「今日のような日のために」

その鍵が導いたのは、忘れ去られた契約書。

数十年前に、私たちの祖父たちが交わした約束。

それは、鉄の掟にも等しい婚約契約。

私を、夫が死ぬ以上に恐れる唯一人の男と結びつけるものだった。

冷酷非道で謎に包まれた億万長者、九条院玲と。

章一覧

全10章

  1. 第1章第1章
  2. 第2章第2章
  3. 第3章第3章

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