あらすじ
夫の一族は、夫がずっと思いを寄せてきた女性のお腹にいる男の子を、生まれる前から跡取りと決めていた。その一方で、夫婦の実の娘は、人目に触れさせてはならない一族の恥として扱われていた。
結婚して三年。愛し合って夫婦になったのだと、彼女は信じていた。けれど娘が亡くなった日、夫はあの女性の妊婦健診に付き添っていた。
「あの子は妻の座なんて望んでない。生まれた子は君が育てればいい。そうすれば、君はこれまでどおり、俺の正式な妻だ」
彼女が自分のもとを去るはずなどない。夫はそう信じきっていた。
けれど、そんな妻の座に、何の未練があるだろう。
彼女は都でいちばん腕の立つ離婚弁護士に依頼し、離婚訴訟を起こした。
「離婚した子連れの女を、どこの男が相手にする」と夫はあざ笑ったが、 彼女が再婚した相手は、都で一番の資産家だった。
元夫は、愛人なら自分の事業を成功に導き、跡取りも産んでくれると思っていた。ところが、彼女のデザインは盗作で、お腹の子の父親も別の男だと、次々にわかってくる。
自分の事業を軌道に乗せてくれたのも、自分のただひとりの子を産んでくれたのも、別れた妻だった。誰もがなんとか近づきたいと願うあの大物の正体も、彼女だったのだ。
元夫は土砂降りの雨の中でひざまずき、懇願した。「頼む。俺たちの娘を連れて、帰ってきてくれ……」
彼女は目を赤くして、冷ややかに笑った。「私たちの娘なら、とっくに死んだわ。あなたがあの女の健診に付き添っていた、あの日にね」
取り乱した元夫は、彼女の足もとにひざまずいたまま許しを請う。「もうひとり、俺と子どもを……」
そこへ大きな手が伸びて、彼女の腰を抱き寄せた。今の夫は、ふくらんだお腹をそっとなでた。「奥さん、今日は僕たちの赤ちゃんの初めての健診だよ。遅れないように行こう」
章一覧
全1章
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