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第3章 毒茶の洗礼と切り札

「純佳、今までどこに行っていたの? 黒川社長が一晩中あなたを待っていたのよ。お父様がどれだけ辛い立場に立たされたか、あなたには分からないの?」

滝本桃紗は上目遣いに純佳を見つめ、今にも泣き出しそうな声で訴えかけた。

純佳はそんな桃紗のわざとらしい涙目を、冷ややかに一瞥する。見ているだけで胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてくるような偽善ぶりだった。

「そんなに辛いなら、お姉ちゃんが代わりにその黒川社長とやらに嫁げばいいじゃない」

純佳が氷のように冷たい声で言い返すと、桃紗の顔からさっと血の気が引き、思わず半歩後ずさった。

それを見た高坂真理枝が、娘を庇う雌鶏のように目を吊り上げて前に飛び出してきた。

「この恩知らずの野良犬が! 誰のおかげで毎日飯が食えてると思ってるの! 黒川社長に嫁がせてやるのは、あんたみたいな落ちこぼれを引き立ててやるためなのよ。口答えするんじゃないわよ!」

真理枝は純佳の鼻先に指を突きつけ、唾を飛ばして罵倒した。

純佳の瞳が刃物のように鋭く光り、無言のまま真理枝に向かって一歩踏み出した。その動作一つに宿る圧倒的な殺気に、真理枝は息を詰まらせ、足を引っ掛けて後ろのソファへ無様に尻餅をついた。

場の空気が凍りつくのを見て、滝本宗二が慌てて二人の間に割って入った。

「まあまあ! 純佳も帰ってきたばかりで疲れているんだろう。桃紗、妹に気持ちを落ち着かせる温かいお茶を淹れてきなさい」

宗二は純佳を見つめ、目の奥に浅ましい欲望の光を宿らせた。今夜、この娘を黒川剛のベッドに送り込みさえすれば、投資金が手に入るだけでなく、亡き妻・染谷芽江が遺した莫大な遺産もすべて自分のものになるのだ。

桃紗は従順にうなずくとキッチンへ向かい、すぐに湯気の立つティーカップをトレイに乗せて戻ってきた。

「純佳、温かいお茶を飲んで体を温めてね。もうお父様を怒らせちゃ駄目よ。私はあなたのお姉ちゃんなんだから、あなたのためを思って言っているの」

桃紗はいつものように首をかしげ、同情を誘う可憐な表情を作りながら、純佳の目の前へカップを差し出した。その瞳の奥には、純佳がこれを飲み干して意識を失う瞬間を待ち望む悪意が潜んでいる。

純佳はカップから立ち上る湯気に視線を落とした。染谷家の医術を受け継ぐ彼女の鋭敏な嗅覚は、紅茶の香りに混じる微量の強力な睡眠薬を、一瞬で嗅ぎ分けていた。

彼女は唇の端をかすかに吊り上げると、桃紗の手からカップを奪い取るように受け取った。

「お姉ちゃんったら、本当に優しいのね。そんなに美味しいお茶なら、まず自分で飲んでみたら?」

言うが早いか、純佳は桃紗の顎を片手で強引に掴み、熱い薬入りの紅茶を彼女の口へと容赦なく流し込んだ。

「あぐっ、げほっ!」

熱湯が桃紗の下半分の顔から首筋にかけてこぼれ落ち、彼女は火傷の激痛に悲鳴を上げた。

ちょうどその時、玄関の扉が乱暴に蹴り開けられ、顔に醜い贅肉を蓄えた黒川剛が、怒り狂った様子でリビングに踏み込んできた。

「滝本宗二! 約束の女はどこだ!」

純佳は悲鳴を上げる桃紗の背中をドンと押し、踏み込んできた黒川の胸元へと勢いよく突き飛ばした。

「きゃああっ!」

黒川は反射的に飛び込んできた桃紗の細い腰を抱き留めると、その柔らかな感触にニヤリと下卑た笑みを浮かべ、無遠慮に腰の肉を揉みしだいた。

「ほお、こっちの姉ちゃんもなかなかいい身体をしてるじゃないか。こっちでも構わんぞ」

その淫らな言葉を聞いた瞬間、高坂真理枝の顔色が青ざめ、発狂したように駆け寄って桃紗を自分の背後へと強引に引き剥がした。

「触るんじゃないわよ、この薄汚い豚! あんたみたいなゴミが、私の可愛い桃紗に気安く触れていいはずがないでしょう! 私の娘は、純佳みたいな安っぽい売女とは違うのよ!」

真理枝は黒川の機嫌を取ることも忘れ、怒りに任せて口汚く罵倒した。

黒川の顔がみるみるうちにどす黒く染まる。滝本宗二は慌てふためき、純佳を指差して怒鳴り散らした。

「福泉純佳! お前というやつは、自分の実の姉を身代わりにして陥れる気か! この恩知らずの悪魔め!」

純佳は腕を組み、冷ややかな目で実の父親を見つめ返した。自分も血を分けた娘だというのに、この男は桃紗のことしか頭になく、純佳が地獄に落ちることには何の痛みも感じていないのだ。

その事実が、彼女の胸の奥で氷のように冷たい嘲笑へと変わった。

純佳は薄く笑い、嵐のように荒れ狂うリビングの中で、雲一つない青空のように淡々と、そしてはっきりと言い放った。

「あら、あたし、まだ言ってなかったかしら?」

全員の視線が彼女に突き刺さる。

「あたし、もう結婚したの」

その言葉が落ちた瞬間、怒号と悲鳴に包まれていたリビングは、まるで時が止まったかのような死の静寂に包まれた。