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第3章 藤原雄大、これがあなたの娘の遺骨!

「奥様」

小林凛花が電話を切ると、竹内執事が恭しく歩み寄った。「高田様のご指示通り、白川市の最高級区画に、藤原莉乃お嬢様のお墓を確保いたしました……」

凛花は胸の小さな骨壺を抱きしめ直し、かすれた声で言った。「莉乃は……海鳴市に埋葬したいと思います」

高田湊斗と結婚すると決めた以上、これからの生活は海鳴市になるのだ。

愛しい娘を、自分から遠く離したくなかった。

竹内執事は頷いた。「承知いたしました。直ちに手配いたします」

「ですが」

彼はそう言うと、顔を上げて凛花を見やった。「海鳴市へ向かわれる前に、一度お戻りになって莉乃お嬢様の遺品を整理なさいますか?」

彼女は胸の骨壺をきつく抱きしめ、こくりと頷いた。

凛花がスーツケースを引きずり、莉乃の遺骨を抱いて藤原雄大との家を出た、まさにその時。雄大の車が、屋敷の前に滑り込んできた。

雄大は運転席のドアを開けると、慌てて助手席側に回り込み、杉本彩花を優しく支えながら車から降ろした。「ゆっくりな」

「奥様?」

彩花は地面に足が着くか着かないかのうちに、玄関先でスーツケースを引く凛花の姿を捉えた。

「まあ、家出でもなさるおつもりで?」

彼女は驚いたように目を見開き、やがて傷ついたような表情に変わった。

彼女は唇を噛み、潤んだ瞳で雄大を見上げた。「雄大さん、だから言ったじゃないですか。こんなに気を使っていただかなくても……」

「全部、私のせいで……」

そう言うと、彼女は俯いて涙を拭い始めた。「私が体調の悪い時に雄大さんを頼ったりしたから……奥様が『莉乃ちゃんが死にそう』なんて嘘をついて、あなたが私を送ってくる間に家出しようなんて……」

スーツケースを引いて家を出ていこうとする凛花の姿に、雄大もさすがに罪悪感を覚えていた。自分の配慮が足りなかったのだろうか、と。

だが、彩花の言葉で我に返った。

そうだ、この女はまだ芝居を続けているんだ!

あれだけ莉乃を溺愛していた凛花にとって、娘は命も同然のはずだ!

本当に娘に何かあったのなら、わざわざ荷造りに戻ってくる余裕などあるものか。ましてや、俺が彩花を連れて帰ってくるタイミングを見計らったように、家出の芝居を打つなどあり得ない。

そこまで考え至ると、男は唇の端を歪めた。「小林凛花」

彼は凛花を侮蔑の眼差しで見下した。「昔からお前は聞き分けがなく、無理やり芸能界に入って役者になると騒いでいたな。莉乃が生まれてようやく落ち着いたかと思ったが」

「なんだ、また病気が始まったか?今度は現実で俺相手に芝居とは、よっぽど役者稼業が恋しいらしいな?」

男の嘲笑に、凛花は言いようのない虚しさを覚えた。

この男こそ、父の遺言に背いてまで、私が必死に一緒になろうとした相手なのだ。

杉本彩花とは知り合ってわずか2年。それなのに、彼はあの女の言いなりで、何を言われても信じてしまう。

それなのに私は。6年もそばにいて、身の回りの世話をし、娘まで産んだ。父が亡くなった後には、小林家の全財産を彼の事業のために投げ打ったというのに……

その見返りが、これだなんて。

「藤原雄大」

彼女は顔を上げ、乾ききった唇を震わせた。声はひどくかすれている。「嘘じゃありません。莉乃は……死んだんです」

現実を受け入れたつもりでも、自分の口から娘の死を告げるその瞬間、声が詰まるのは抑えようがなかった。

だが、その悲しみさえ、雄大の目には芝居にしか映らない。

雄大は眉をひそめ、怒りを露わにした。「小林凛花、いい加減にしろ!」

「何度言わせるんだ!莉乃は人間だぞ!お前の嫉妬のはけ口に使う道具じゃない!」

「奥様」

彩花もすかさず口を挟む。唇を噛み、目を赤くしながら。「雄大さんに私の世話をさせたくないなら、そうはっきりおっしゃればいいじゃないですか。どうして莉乃ちゃんに不吉なことばかり言うんですか?」

「雄大さんがご家庭を大切にして、莉乃ちゃんを可愛がっているからって、そんなことで気を引こうとするなんて……。家族のために外で身を粉にして働いて、もうクタクタなんですよ……」

雄大の目に、ようやく心が動かされたような色が浮かんだ。

彩花はいつだって、こうして俺を気遣ってくれる。

嫉妬に狂うことしか能のない、小林凛花とは大違いだ。

俺がどれだけ疲れていようが、気遣いひとつ見せたことがない。

「……もういいです。私は帰りますね」

彩花はまた一つしゃくりあげた。「奥様、もう私のことで、可哀想な莉乃ちゃんに不吉なことを言うのはやめてください。私はただの貧血なだけですから……死にはしません」

「君のせいじゃない!」

雄大は慌てて彩花の手を掴むと、冷たい視線を凛花に向けた。「全部、こいつの嫉妬深さが原因だ」

固く握り合った二人の手を見て、凛花はそっと目を閉じた。もう一言も言葉を交わす気力もない。

彼女は背を向け、スーツケースを引きずって道へ向かった。

彩花が追いすがり、後ろからスーツケースを掴んだ。「奥様!」

「放しなさい!」

「嫌です!」

彩花は凛花の前に回り込み、涙ながらに訴える。「行かないでください。雄大さんと喧嘩するのはやめて、お願いです。あの人の苦労を少しは分かってあげてください」

言いながら、彼女の視線は、凛花が胸にずっと大事そうに抱えているピンク色の箱に注がれていた。

その目に悪賢い光が宿ると、次の瞬間、彼女は箱をひったくろうと手を伸ばした。

凛花はとっさに一歩後ずさり、声を荒らげた。「触らないで!」

凛花が身を引くのを見て、彩花はすぐに声を張り上げた。「雄大さん!奥様がずっと抱えているこの箱、きっとすごく大事なものなんです!」

「早くこっちに来て手伝ってください!これを取り上げれば、奥様も意地を張って出て行ったりしないはずです!」

雄大は、小林凛花という女には心底うんざりしていた。

だが、必死に関係を取り持とうとしてくれる彩花の姿には、心を動かされるものがあった。

雄大は大股で歩み寄った。「それを彩花に渡せ!」

言うなり、彼は箱の端を掴み、力ずくで奪い取ろうとした。

凛花は悲鳴を上げた。「やめて!その子に触らないで!」

しかし、非力な女である上、先の事故で負った足の傷もまだ癒えていない。

その箱は、ついに雄大の手に奪われ、彩花へと渡された。「ほら」

彩花は満足げに箱を受け取った。「奥様、一体何が入っているんですの?こんなに大事そうに……」

「きゃっ!何これ、気味が悪い!」

「やめて――!」

凛花の、喉が張り裂けんばかりの絶叫が響いた。

だが、もう遅い。

箱は彩花の手から滑り落ち、乾いた音を立てて地面に叩きつけられた。

灰白色の粉末が瞬く間にこぼれ出し、夕暮れの風に吹かれて舞い散った。

凛花は、膝から崩れ落ちるように、その場に跪いた。

「莉乃……莉乃……」

彼女は地面に這いつくばり、震える手で土にまみれた遺骨をかき集めようとする。だが、かき集めたそばから、はかなく指の間をすり抜けていく。

彼女は顔を上げ、雄大を睨みつけた。喉の奥から絞り出すような声が漏れる。「藤原雄大。これが、あなたの娘の遺骨よ!」

現在読めるのはここまでです。

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全126章

  1. 第1章第1章 娘をダシにするなんて
  2. 第2章第2章 盛大な結婚式を挙げてやる
  3. 第3章第3章 藤原雄大、これがあなたの娘の遺骨!

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