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第2章 親友の冷笑と隠蔽計画

「……昨夜の匿名メッセージ、あなたが送らせたのね?」

和花は氷のように冷たい声で問いかけた。

電話の向こうで、亜美は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにクスリと笑い声を漏らした。『なんのことかしら? 私、昨夜はずっと成也くんのそばにいて、メッセージなんて一通も送ってないわよ。ねえ、成也くん?』

和花は冷笑を一つこぼし、返事も待たずに通話を切った。そのまま成也の連絡先を通知オフに設定する。

そのとき、病室のドアが勢いよく開いた。

ハイヒールを激しく鳴らしながら飛びこんできたのは、高級会員制の産後ケアセンターを経営する親友の菊田莉音だった。ブランドバッグを握りしめ、肩で息をしている。

ベッドの上で青白い顔をし、すっかり平らになった和花のお腹を目にした瞬間、莉音の目元が真っ赤に染まった。彼女はベッドサイドへ駆け寄ると、和花の冷たい両手を力任せに握りしめた。

和花は静かに、昨夜ホテルで目撃した残酷な光景と、助けを求めて成也に電話をかけたものの無情に切られた経緯を淡々と語った。

それを聞いた莉音は、怒りで声を震わせた。

「あのクズ男! あんたが大出血して手術室で生死の境をさまよってたのに、電話を切って見捨てるなんて……! たった一人でこんな痛みに耐えてたなんて!」

怒りで声を震わせる親友の手を、和花は静かに握り返す。その指先の冷たさに、莉音は小さく息をのんだ。

「莉音、もう痛くないわ。あんな男のために泣く価値なんてないもの」

あまりにも平坦で冷え切った声に、莉音はハッとして和花の顔を見つめた。深呼吸をして感情を押し殺すと、莉音はバッグから自分のスマートフォンを取り出し、画面を表示させて和花の目の前に差し出した。

「見てよ。あの泥棒猫がSNSに上げた投稿」

画面には、二つのワイングラスと、重ね合わされた男女の手元が写し出されていた。「遠回りしたけれど、一番大切な人はやっぱり隣にいた」というポエムのような一文が添えられ、男の手首には、見覚えのあるパテック・フィリップが鈍く光っている。

さらに、本来なら成也の腕にあるはずの、和花が彼の厄除けのために有名寺院で何日も祈祷して手に入れた限定の護符ブレスレットが、今や亜美の細い手首にこれ見よがしに巻かれていた。

和花はその写真をじっと見つめ、唇の端に冷ややかな笑みを浮かべた。

(本当に素晴らしいわ。私があれほど苦労して手に入れたお守りすら、平気で愛人に渡すなんて。あの女の地位はずいぶんと高いのね)

かつての愚かなほどの一途な愛は、昨夜の冷たい非常階段で完全に死に絶えた。今、和花の胸の奥で静かに燃え始めているのは、自分と娘を地獄へ突き落とした者たちへの、底知れぬ憎悪と冷酷な復讐心だけだった。

「いい写真ね。不貞行為の動かぬ証拠として、そのまま裁判所に提出できるわ」

和花は顔色ひとつ変えずにその画像を自分の端末に保存した。ただ悲しむのではなく、すべての怒りを武器に変えていくのだ。

スマートフォンを押し戻された莉音は、一瞬きょとんとしたあと、その瞳に鋭い光を宿した。

「あんた、やっとあのクズを捨てる気になったのね?!」

「捨てるだけじゃないわ。慰謝料と財産分与で身ぐるみ剥いで、私とこの子の未来のための資産をすべて取り戻すの。この子の名前は――陽菜に決めたわ」

まるできょうの天気でも話すかのような落ち着いた口調で、和花は告げた。

莉音は丸椅子を引き寄せて腰を下ろすと、真剣な面持ちで眉をひそめた。

「でも、あんたはもう産んじゃったのよ? 杉崎の家が、跡取りの男の子じゃなくて女の子だって知ったら、あの強欲な姑が黙ってるはずないわ。離婚を切り出しても、手切れ金すら払わずに追い出されるんじゃない?」

跡継ぎ問題に異常な執着を持つ杉崎家の内情を知る莉音の指摘は、もっともだった。

和花は窓の外に広がるビル群に視線を向け、きっぱりと言い放った。

「いいえ、男の子だろうと女の子だろうと関係ないわ。あの自己中で悪毒な姑のことだから、私が産んだと知れば絶対に子供を奪いに来る。だから、私がすでに出産したことは、あいつらには絶対に知らせない」

「えっ……?!」

莉音は目を見張り、慌てて声を潜めた。

「杉崎の家に隠すって……そんなの、どうやって誤魔化すつもりなのよ」

和花はゆっくりと首を巡らせ、射抜くような視線で親友を見据えた。

「あなたが手伝ってくれれば、必ず騙し通せるわ。精巧なシリコン製の偽妊婦腹を着けて、これからも港区の豪邸に閉じこもる『おとなしい妊婦』を演じ続けるのよ」

莉音は息をのんで言葉を失ったが、すぐにその顔へ不敵な笑みを広げた。

「……狂ってるわね。でも最高。いいわ、最後まで付き合ってあげる。ハリウッド映画の特殊造形を手がけるトップの職人に連絡をつけて、本物と見分けがつかないシリコン腹をすぐに用意させるわ」

和花は小さくうなずくと、枕の下からタブレット端末を取り出し、素早い手つきで杉崎ホールディングスの社内財務システムを呼び出した。

自分だけが知る最高権限のパスワードを打ちこみながら、低く呟く。

「成也は自分の実力で会社が回っていると勘違いしているけれど、資金のパイプラインを握っている『長田代表』が私だとは夢にも思っていないのよ。人工呼吸器を外された会社にどれだけ価値が残るか、見ものだわ」

画面に複雑な資金移動のチャートが浮かび上がり、和花は主力プロジェクトの資金プールを特定すると、合法的に引き揚げるルートを組み立て始めた。

その鮮やかな手並みを横で見ていた莉音が、小さく鼻を鳴らす。

「杉崎成也のやつ、自分がどんな化け物を敵に回したか、想像もついてないでしょうね」

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読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全20章

  1. 第1章第1章 結婚記念日の凍てつく冬と鮮血
  2. 第2章第2章 親友の冷笑と隠蔽計画
  3. 第3章第3章 すぐそこに迫るクズ夫の影

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