あらすじ
結婚七周年の記念日。私のもとには、ふたつの「贈り物」が届いた。
ひとつは、大使館からの緊急の警告だった。——A国における武力衝突が間もなく勃発するため、速やかに退避せよ、というもの。
そしてもうひとつは、夫からのメッセージだ。「荷物をまとめて、階下で十分間だけ待っていてくれ」
私はすぐさま救急キットを鞄に詰め込み、急いで建物の下へと向かった。
周囲の人々が血相を変えて次々と避難していく中、いくら待っても夫の姿は現れない。
迫りくる恐怖に急き立てられるように電話をかけた私を待っていたのは、あまりにも冷酷な響きを帯びた声だった。
「車は会社の機密書類で満杯で、もう乗るスペースがないんだ。それに、あの子は極度の戦争恐怖症だから、俺が先に連れて避難しなきゃならない」
その瞬間、全身の血がさっと凍りつくのを感じた。私は震える唇を動かし、信じられない思いで問い返す。「……じゃあ、私はどうなるの?」
電話の向こうで、夫はひどく苛立ったように舌打ちをした。「甘ったれるなよ。お前は大使館の手配したバスに乗れば、それで同じように帰れるだろう」
鼓膜を震わせる無情な砲火の轟音が鳴り響き、私たちが育んできた七年分の愛情は、瞬く間に細かな塵となって吹き飛んだ。
もう、彼にすがるのはやめよう。私はただ一人で救急キットを背負い直し、赤く染まる戦火の中へと背を向けて歩き出した。
章一覧
全9章
/0/23191/coverbig.jpg)
/0/21480/coverbig.jpg)
/0/24849/coverbig.jpg)
/0/26115/coverbig.jpg)
/0/22248/coverbig.jpg)
/0/24078/coverbig.jpg)
/0/20682/coverbig.jpg)
/0/27221/coverbig.jpg)
/0/27166/coverbig.jpg)
/0/27154/coverbig.jpg)
/0/27104/coverbig.jpg)
/0/27150/coverbig.jpg)
/0/27134/coverbig.jpg)