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第3章
「うん」私はおとなしく毛布にくるまり、頷いた。 けれど、ついまた視線が運転に集中している彼へと向かう。 無表情なときの陸は、いつも冷たくて近寄りがたく見える。 学校では彼を好きな子がたくさんいたけど、誰も告白なんてできなかった。 彼は駆と同じ寮のルームメイトだった。 私はよく駆を訪ねてその寮へ行っていたけれど、行くたびに陸は私をうっとうしそうに見ていた。 そして今も、迎えに来てくれたのに、態度はやっぱり冷たいまま。 さっき車に押し込まれたときは、手加減なんて一切なくて——手首にはまだ赤い跡が残っているし、ひりひりと痛んでいた。 どう見ても、彼がずっと密かに私のことを想っていた、なんて信じられない。 私はそっとまつげを伏せた。 夢の中で見たことは、今のところ、すべて現実になっている。 でも——私が動き出したことで、少しずつ変わりはじめたこともある。 じゃあ、陸の気持ちも……変わってしまったのだろうか。 それとも、最初から私のことなんて、何とも思ってなかったのか。もしそうなら、私の行動は彼に迷惑をかけているだけじゃないか……。 「寮に戻るか?」 突然、陸が横目で私を見て、問いかけてきた。 私の心臓がどきりと跳ねた。気づけば、口をついて出た言葉は—— 「うん、あなたの寮に戻る」 陸はハンドルを握ったまま、鼻で笑うように嗤った。「駆は今夜、戻ってこないぞ」 「知ってる」 私は毛布の端を握って、ぎゅっ、ぎゅっと指先に力を込めていく。 「別に、彼に会いたいわけじゃない」 次の瞬間、車が急ブレーキをかけて、路肩に停まった。 陸がこちらに振り返る。その瞳の奥にある冷たい霜のような色が、胸の奥をずしんと打った。 「花、俺をお前らの茶番に巻き込むな」 「ちがう、そんなつもりじゃ……」 彼は私をじっと見つめたまま、スマホを手に取った。 「タクシー呼んでやる。自分で帰れ」 「……陸」 私は唇をきつく噛みしめて、思わず彼のスマホを奪い取った。 「花」 彼は私を見つめたが、その目には怒りや嫌悪はなかった。 ただ、深く澄んだその瞳には、無数の感情が渦巻いていた。 私は突然、言葉にならない悲しさが溢れてきた。 「……陸、帰りたくない。寮に戻ったら、みんな笑うの」 「家にも帰れないの」 「ねえ……あなたの寮で、一晩だけ過ごさせてもらえない?」 私は彼のスマホを背中に隠しながら、声をだんだん小さくしていった。 「もちろん、もし本当に……私のことが嫌で、顔も見たくないって言うなら……いい。諦める」 その言葉が静かに落ちると同時に、涙がぽろり、と目から零れ落ちた。 ひと粒ずつ、静かに、音もなく。 陸は何も言わなかった。 だけど、彼は黙ってエンジンをかけ、車を再び走らせた。 向かったのは学校。そして車は、彼の寮の建物の前で止まった。 私は黙って陸について寮の中へ入った。 彼はクローゼットからきれいなスウェットを一着取り出して、私に差し出した。「風呂、あっち」 陸は背が高いから、渡されたスウェットは私にはぶかぶかで、膝まで届くその丈は、まるでワンピースみたいだった。 シャワーを浴びたあと、そのままスウェットを着て、素足のまま部屋に出る。 陸は私をちらりと一瞥したが、すぐに目をそらした。 私は駆のベッドの横を通り過ぎて、陸のベッドの端にそっと腰を下ろす。 濡れた髪の先から水滴が落ちて、シーツにしみをつくった。 私の体にふんわりと残る香りは、陸が使っているシャンプーとボディソープのものだった。 狭いこの空間に、彼と同じ匂いがほんのりと漂いはじめる。 それは、言葉にできないけれど、どこか曖昧で、静かに芽生えるなにかだった。 陸はタバコの箱を手に取り、軽く咳払いをして言った。「ちょっとタバコ吸ってくる」 そして、バルコニーへと出ていった。 私は少しだけ興味をそそられて、陸のベッドを見回す。 淡いグレーのシーツと布団は、きちんと整えられていて清潔そのもの。 机の上にはパソコンと数冊の本が置かれ、無駄のない整った印象だった。 なんとなく、彼の机の置物にも目を向けようとした、そのとき—— 突然、携帯が鳴った。 画面に表示されていた名前は、仁科 駆だった。
章一覧
全14章
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