あらすじ
お腹の子を守るための注射を終えたばかりの私に届いた、一本の匿名動画。
画面の中で、あの人が誕生日の帽子をかぶった小さな男の子と楽しげに歌っている。
指ですくったクリームを笑いながら女の鼻先に塗り、愛おしそうに口づけで拭い去る姿。
スマホが手から滑り落ち、身体の震えが止まらない。
彼の手首に見える傷跡は、かつて私を救うために負ったもの。
そして首元で揺れているのは、私が寺院まで赴き、彼の無事を祈って授かったお守りだというのに。
帰宅した私を迎えたのは、広すぎるリバーサイドの虚ろな豪邸だった。
家政婦が煎じ薬をテーブルに置き、深いため息と共にこう告げる。
「旦那様は今夜も接待で、お食事には戻らないそうです」。
仕事を口実に彼が帰ってこなくなって、これで十日目になる。
私は愛の証だったダイヤモンドの指輪を外し、弁護士への通話ボタンを押した。
もう、待つのは終わりにしよう。私に向けるべき優しさを他の誰かに捧げてしまった男になど、これ以上すがる価値はないのだから。
章一覧
全10章
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