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チャプター 3 離婚当日にまさかの電撃再婚?
藤原圭吾の力は強かった。千葉美月は彼の手から逃れられないと悟ると、まっすぐに彼の視線を受け止めた。
「手を離して。私はこの人を助けてるの!」
野次馬たちが小声でささやき合う。
「だから言ったじゃないか。道端の年寄りに迂闊に手を貸すなって。ほら見ろ、因縁をつけられたぞ」
圭吾の後ろに控えていたボディーガードが、その発言者をちらりと睨んだ。
皆、厄介事に巻き込まれるのを恐れ、次々と散っていった。
圭吾は疑わしげに美月を観察した。
すっぴんの顔に、安っぽい白のTシャツ、色落ちするまで着古したジーンズ、ボロボロのキャンバストート……
圭吾の視線は美月が手に持つ小さな薬瓶をかすめ、最終的に彼女の微動だにしない瞳へと戻った。
「祖母が無事であることを祈るんだな。さもなくば――」
言い終わる前に、圭吾の腕の中で老人がピクリと動き、彼の声はぴたりと止まった。
藤原千代がゆっくりと目を覚ました。濁った目を二度まばたきし、圭吾を見ると、ぼんやりとした視線を向けた。
「圭吾、どうしてここにいるんだい?」
圭吾の張り詰めていた神経が一瞬で解けた。美月の手首を離すと同時に、すぐさま千代を抱え起こす。「お祖母様、倒れられていたんですよ。お加減はいかがですか?」
しかし千代は圭吾には構わず、美月の顔をじっと見つめた。
「孫嫁が助けてくれたんだね」
その言葉に、二人は揃って呆然とした。
圭吾が真っ先に我に返った。本当に彼女が千代を助けたのか。
「彼女は孫嫁ではありません。さあ、家に帰りましょう!」
だが千代は圭吾の手を振り払った。「お前たち、入籍しに行ったんじゃなかったのかい? なんでこんな所にいるんだ?さては喧嘩でもしたのかい?」
美月は最初こそ驚いたが、すぐに状況を理解した。おそらく慢性的な毒素による認知機能の低下だろう。
「お祖母さん、人違いですよ」
圭吾の眉間がさらに深く刻まれた。
彼はできるだけ優しい声で言った。「お祖母様、また勘違いされています。彼女は……」
「婚姻届を出したんだろう?証拠を見せておくれ」
千代は二人の言葉にまったく耳を貸さない。
美月はスマホで時間を確認した。ーー遅刻してしまう!
「お祖母さんが無事なら、私はこれで」
しかし千代は美月の手をぎゅっと握って離さない。
「孫嫁は帰しちゃだめだ。入籍した証拠を見せてくれないなら、私は……ハンストするよ」
圭吾は頭痛を堪えるように眉間を揉んだ。この老婦人が一度思い込んだら、周りがいくら説得しても無駄なのだ。
その時、スマホの着信音が鳴った。美月は大野院長からの電話だと確認し、慌てて空いている方の手で出た。
『ごめんなさい大野先生、ちょっと急用が入ってしまって……ええ、また後日に』
電話を切ると、千代が満面の笑みで彼女を見つめていた。
「孫嫁や、うちの圭吾を怒らないでおくれ。お詫びに藤原グループをまるごとあんたにあげるよう言っておくから」
藤原グループ?
美月は心の中で首を傾げた。ーーまさかこの男、藤原グループと関係があるのだろうか?
彼女が尋ねようとした矢先、千代は再び圭吾に目を向けた。「さっさと孫嫁を入籍に連れて行かないか! これ以上孫嫁を怒らせるようなら、もう家の敷居は跨がせないからね!」
圭吾は険しい顔をしたものの、どうしても千代には逆らえず、低い声で答えるしかなかった。「分かった、入籍しよう」
千代はそこでようやく美月の手を離し、階段にどっかりと座り込んだ。「ここで待ってるからね」
どうしようもなく、圭吾は美月を少し離れた場所へと連れ出した。
「さっきは……私が勘違いしていた」
どうしても、「すまない」という言葉だけは口にできなかった。
「見ての通りだ。祖母を安心させるために、君と入籍する必要がある」
美月は反射的に断ろうとしたが、ふとあることに思い至った。
「あなた、藤原グループとどういう関係?」
「藤原グループ社長、藤原圭吾だ」
男は冷たい声で答えた。
美月はわずかに目を丸くした。ーー彼が藤原グループの社長? あの噂に聞く「生き閻魔」?
圭吾は言葉を続ける。
「1ヶ月後に離婚する。その見返りとして、契約を終えたら君の条件を一つ呑もう」
圭吾は腕を上げ、腕時計に視線を落とした。その声に温かみは微塵もない。
「考える時間は2分だ」
美月は断りの言葉を喉の奥に飲み込んだ。
ちょうど彼女の今後の研究には「NRデータ」が必要なのだが、そのデータは藤原グループだけが独占している。
たかが1ヶ月じゃないか。それくらいなら待てる。
美月はすぐさま笑みを浮かべた。
「商談成立ね!」
二人は婚前契約書にサインし、手続き通りに婚姻届を提出した。
千代は婚姻届の受理証明書を自分の目で確かめて、ようやく家に帰ることに同意した。
「よかったよかった。さあ孫嫁や、一緒に帰ろう」
圭吾は頭痛を堪えるように眉間を揉んだ。今回は入籍だが、次は一体何を言い出すことやら。
美月が千代を支えて車に乗り込むのを見届けてから、アシスタントの久保健太がようやく歩み寄ってきた。彼は心の中でひそかに思った。
わずか3年で藤原グループを業界トップに押し上げた東都第一の財閥のトップが、自分の祖母にこれほどまでに頭が上がらないなんて、一体誰が想像できるだろうか?
「藤原社長、確かな情報が入りました。国医の『K先生』が3日後に戻られるそうです」
圭吾の深淵な黒い瞳がぱっと輝いた。「贈り物の準備をして、すぐに『K先生』に連絡を取れ。祖母の毒を解けるのは彼だけだ」
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