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第3章
千砂 POV:
会議室の空気は, 鉛のように重く, 私を押し潰しそうだった. 聡史の目は, 氷のように冷たく, そこに宿る光は, 私に向けられた憎悪だけだった.
「何が目的だ. 金か? それとも, 僕の成功が妬ましいのか? 」
彼の声は, 感情のこもらない, ただの機械的な音だった. 金. その言葉は, 私にとって毒だった. 私は金のために彼を捨て, 金のために彼を救った. そして今, 金のために彼に会いに来た.
そう, 金が欲しい. 私の病を治すため, そしてこのお腹の子を守るため.
でも, 彼の言葉は, 私の魂を汚すようだった. 私は反論しようと口を開いたが, すぐにまた閉じた. 彼に何を言っても無駄だ. 彼はもう, 聞く耳を持たない.
「謝罪しろ. 美穂に」
彼の命令は, 絶対的なものだった. あの時, 私を守ってくれた彼の言葉が, 今, 私を傷つける.
「あなたには, 真実が見えないんですか? 」
私は問いかけた. 私の声は, ひどく掠れていた.
「真実などどうでもいい. 僕の婚約者を傷つけたお前が, 謝罪するのが筋だろう」
彼の言葉は, 私の心に深く突き刺さった. 真実などどうでもいい. 彼は, 私の存在そのものを否定した.
「謝れ」
彼の声が, 会議室に響き渡った. 私は, 過去の彼を思い出した. 私が困っている時, いつも私の盾になってくれた彼.
「千砂は, 俺が守る」
そう言って, 私の手を握ってくれた彼. あの頃の彼は, どこにもいなかった. 彼の目は, 私をまるで, 見知らぬ他人のように見ていた.
私は自嘲するように, 小さく笑った. そして, 美穂の方へゆっくりと歩み寄った.
「申し訳ありませんでした, 白鳥さん. 私の不注意で, あなたの服を汚してしまいました」
私の頭は, 深く下がっていた. その言葉は, 私の魂を削り取るようだった.
美穂は, 嘲るように口角を上げた.
「それだけ? もう少し, 誠意を見せてもらえないかしら」
彼女の声は, 私をさらに追い詰めた. 聡史の目が, 私を冷酷に見ていた.
「美穂. 遠慮することはない. やり返してやれ」
聡史の言葉が, 私の耳に信じられない響きで届いた. 彼は, 私を傷つけることを, 彼女に促したのだ.
美穂は, にやりと笑った. そして, テーブルの上の水を迷わず掴み, 私の顔に, 勢いよくぶちまけた.
氷のように冷たい水が, 私の顔を打った. そして, 冷たい雫が, 私の頬を伝って流れ落ちる. まるで, 私の涙のように.
私は何も言わなかった. ただ, 冷たい水を拭い, 彼女の冷酷な目を見つめ返した.
美穂は, 私の反応が気に入らないようだった. 彼女の顔には, 苛立ちが浮かんでいた.
「反省しているのかしら, この女は」
彼女は聡史に問いかけた. 聡史は, 私の麻痺したような表情を見て, 冷たく言い放った.
「彼女には, 何をやっても無駄だ. 何をされても, 何も感じない人間だからな」
彼の言葉は, 私の心を深く抉った. 彼の言葉は, 私が彼から離れたあの瞬間から, ずっと私を苦しめてきた.
私は, もう何も感じない. 彼の言葉も, 美穂の態度も, 私を傷つけることはできない. 私はもう, 痛みを感じることを諦めた.
私はただ, 深く頭を下げた. そして, 会議室を後にした.
もう, 何も残されていない.
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