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「弾薬の装填は終わったわ」

静はノートパソコンをバタンと閉じ、冷え切った指先を白くなるまで強く握り込んだ。

エンターキーを叩く乾いた音が、彩音のマンションのリビングに響き渡った。

画面の中央でプログレスバーが100%に達し、「転送完了」のポップアップが点灯する。あの醜悪で生々しい「交尾映像」が、三つの暗号化クラウドに完全にロックされた瞬間だった。

「なら、こっちも最高の『通行証』を用意したわよ」

彩音が目を輝かせながら、一枚の招待状をテーブルに滑らせた。金の箔押しが施された、ロイヤルクレストホテルのVIPインビテーション。マスコミ枠の中でも、ごく一部の特権階級にしか配られないものだ。

「今夜のチャリティーパーティー。佐藤健斗のクズ野郎は、自分が主役だと思ってふんぞり返ってるはずよ。最高の処刑場じゃない?」

静は不敵に微笑むと、再びキーボードを叩き、ホテルの宴会管理システムに侵入。招待客リストの末尾に、何食わぬ顔で『西園寺静』の名前を暗号化して忍ばせた。

数時間後。

寝室から現れた静の姿に、彩音は息を呑んで言葉を失った。

常に地味で、目立たないようにと佐藤家から強要されていた「パステルカラーの従順なワンピース」はもうない。

静が身に纏っていたのは、血のように深く、攻撃的な真紅のイブニングドレスだった。

背中が大胆に開き、雪のように白い肌と黒髪のコントラストが、見る者の目を焼き尽くすほどの妖艶さを放っている。大和撫子の仮面を完全に叩き割った、復讐の女神の姿がそこにあった。

「……静、あんた、最高に綺麗よ。あいつら、絶対腰を抜かすわ」

「ええ。最高の悪夢を見せてあげる」

一人タクシーに乗り込み、ロイヤルクレストホテルへと向かう。

窓の外を流れるネオンの光が、静の瞳に刃のような鋭い光を反射させていた。

——

タクシーが、金色の装飾が施されたホテルのエントランスに停まる。

静がドレスの裾を捌きながら車を降りると、冷たい夜風が彼女の黒髪を大きく揺らした。

回転ドアに向かおうとした、その時だった。

周囲の喧騒が、まるで真空パックにされたように一瞬で消え去った。

一台の漆黒のマイバッハが、特殊な連番のナンバープレートを誇示するように、静のすぐ背後に滑り込んできたのだ。

ドアが開き、屈強な黒服のSPたちが十数人、素早く降りて黒い傘を広げ、周囲の人間を弾き飛ばすように鉄壁の人垣を作る。

静は、その異常な空気に思わず足を止めた。

雨に煙るその向こう。後部座席から、一人の長身の男が降りてきた。

一切の無駄を削ぎ落とした漆黒のオーダーメイドスーツ。手には、先端に希少なブラックダイヤモンドが嵌め込まれた杖。

男が一歩踏み出しただけで、エントランスの温度が数度下がったかのような、暴力的なまでの威圧感が空気を支配した。

静の心臓が、警告音を鳴らすように不規則に跳ねた。

頂点に君臨する捕食者に、喉元を睨まれたような抗いがたい圧迫感。

男——鷹司暁は、SPが掲げる巨大な傘の下で、ゆっくりと顔を上げた。

その深く、底知れない氷のような瞳が、雨のヴェールを突き抜け、真っ赤なドレスを着た静の姿を、正確に射抜いた。

視線が絡み合ったのは、コンマ数秒。

しかし、静にはそれが永遠のように感じられた。男の視線は、服を通り越し、彼女の魂の奥底まで値踏みするような、極めて危険な熱を帯びていたからだ。

その瞬間、夜風が静の髪を揺らし、暁の鼻腔を微かに掠めた。

——六年前の雪の夜に嗅いだ、あの梔子の花の香り。

暁の杖を握る骨張った長い指に、ギリッと力が籠もる。

氷の奥底で、狂気じみた狩人の炎が燃え上がった。六年。地球の裏側まで探し続けた獲物が、今、自分から牙を剥き出しにして目の前に立っている。

静は、男の放つ異常な引力に呑まれそうになるのを必死に振り払い、パッと視線を逸らした。

「今夜のターゲットは健斗よ。余計な大物にペースを乱されてはいけない」

心の中でそう呟き、彼女は背筋を伸ばして、ホテルの回転ドアへと堂々と足を踏み入れた。

彼女は気づいていなかった。

背後で、鷹司暁が歩みを止め、その血のように赤いドレスの背中が完全に視界から消えるまで、一瞬たりとも目を離さなかったことに。

「……小方」

暁は、低く、腹の底に這うような声で傍らの秘書を呼んだ。

「はっ、総帥」

「あの赤いドレスの女。今夜の宴会場で、彼女の半径五メートル以内に近づくオスをすべてリストアップしろ」

暁の唇の端に、極めて危険で、絶対的な独占欲に満ちた笑みが浮かんだ。

「彼女は、俺の獲物だ。誰にも指一本触れさせるな」

現在読めるのはここまでです。

読み進めると物語が続きます。

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全100章

  1. 第1章チャプター 1 No.1
  2. 第2章チャプター 2 No.2
  3. 第3章チャプター 3 No.3

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