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―― 長岡華穂 ――
祖母の遺骨は、小さな白い骨壷に収められた。私は、祖母の遺灰の一部を、小さな銀のペンダントに入れた。それは、私がいつも身につけていられるように、と。ペンダントは、私の唯一の心の支えだった。私はそれを強く握りしめた。
私は、祖母の墓前へと向かった。冷たい石の前に立ち、花を手向けた。
「おばあちゃん、見ていてください。私は、もう泣かない。あいつらに復讐する。決して許さない」
私は、心の中で誓った。祖母が教えてくれた優しさや慈愛は、もう私の心には残っていなかった。残っているのは、憎悪と、復讐への燃え盛る炎だけだった。
墓地を後にして、私は彼らと暮らしていた家へと帰った。門をくぐると、庭から楽しげな声が聞こえてきた。奈々泉と、三尾兄弟、そしてその友人たちが、バーベキューを楽しんでいるようだった。奈々泉は、光男の腕に絡みつき、満面の笑みを浮かべていた。敦人もまた、奈々泉の隣で笑っていた。
私の心は、凍りついた。祖母の死を悼む間もなく、彼らは私の家で、まるで自分たちの勝利を祝うかのように振る舞っていた。彼らにとって、祖母の死は取るに足らないことなのだ。その無関心が、私の復讐心をさらに強くした。 私は、彼らに気づかれないよう、静かに家に入ろうとした。
その時、光男が私に気づいた。
「華穂。どこに行ってたんだ。心配したぞ」
光男は、優しい顔で私に近づいてきた。彼の顔は、私にとって最も憎むべき欺瞞の象徴だった。
「ただ、祖母の墓参りに行っていただけです」
私は、冷たく答えた。奈々泉が、光男の腕から離れ、私に近づいてきた。
「あら、華穂さん、お帰りなさい。おばあさま、お気の毒でしたわね。でも、もうすぐ結婚式ですもの。元気を出さないと」
奈々泉は、まるで心から心配しているかのように言った。その目は、しかし、奥底で冷たい光を宿していた。彼女の言葉は、私にとって最大の侮辱だった。
「奈々泉、気を遣ってくれてありがとう」
光男が奈々泉の肩を抱き寄せた。
「奈々泉は、本当に優しいな。華穂、奈々泉を見習え」
敦人もそう言った。奈々泉は私に向かって微笑んだ。しかし、その笑顔の裏には、はっきりとした悪意が見え隠れしていた。
「華穂さん、最近、元気がないみたいだけど、もしかして、私に嫉妬してるんじゃない。だって、光男様も敦人様も、私のことをとっても可愛がってくださるもの」
奈々泉の声は、甘ったるく、しかし、毒を含んでいた。私の脳裏に、奈々泉にいじめられていた過去の記憶がフラッシュバックした。倉庫に閉じ込められ、暗闇の中で怯えていた私。
私は、反射的に奈々泉を突き飛ばした。奈々泉は、バランスを崩してよろめいた。彼女は、すぐに顔を歪め、泣きそうな顔で光男に助けを求めた。
「光男様……華穂さんが、私を突き飛ばしたの」
光男と敦人の顔から、一瞬にして笑顔が消えた。彼らは、奈々泉に駆け寄った。
「華穂。何をするんだ」
敦人が、私を睨みつけた。
「奈々泉は、俺たちの大切な幼馴染だぞ。お前は奈々泉に謝罪しろ」
光男が、奈々泉を抱きしめながら言った。彼らの目は、私を憎悪に満ちて見つめていた。
「どうして、私が奈々泉に謝らなければならないの」
私は、冷静に問い返した。
「奈々泉は、お前を心配して、声をかけてくれたんだぞ。なのにお前は、奈々泉を突き飛ばすなんて」
光男は怒りに震えていた。
「奈々泉は、嘘つきです。彼女が私に何をしてきたか、あなたは知らないでしょう」
私は、声を荒げずに言った。しかし、彼らは私の言葉を聞き入れなかった。
「もういい。お前は、奈々泉に謝らないなら、部屋に閉じこもって反省しろ」
光男が、私を睨みつけた。私の心臓が、ドクンと大きく鳴った。閉じこもる。あの暗闇の部屋に。
「やめてください。私は、病気なんです。暗闇恐怖症に」
私は必死に訴えた。しかし、光男は私の腕を掴み、問答無用で私を家の中へ引きずり込んだ。敦人は、奈々泉を抱きしめながら、冷たい視線で私を見送っていた。
「華穂、奈々泉に謝罪するまで、その部屋から出すわけにはいかない」
光男は私を、地下室の、窓のない部屋に押し込んだ。そこは、完全に暗闇だった。私は、パニックに陥った。呼吸が浅くなり、心臓が激しく脈打った。
「開けて。お願い。開けて」
私はドアを叩き、叫び続けた。しかし、返事はなかった。私は、暗闇の中で膝を抱え、震え続けた。
奈々泉にいじめられた過去の記憶が、鮮明に蘇ってきた。倉庫に閉じ込められた時の恐怖。息ができないほどのパニック。私は、その時の感覚に再び襲われた。
光男は、私の暗闇恐怖症を知っていたはずだ。彼は、私を癒してくれたはずだ。しかし、今、彼は私を最も恐れる場所に閉じ込めた。これは、彼らの計画の一部だったのだ。私の弱点を知り尽くし、それを逆手にとって私を苦しめる。
「光男さん……どうして……」
私は、心の中で呟いた。涙が止まらなかった。私が信じた愛は、私の心を深く傷つけるための、最も残酷な武器だった。彼らは、私を愛していなかった。私を利用し、私を傷つけることだけが、彼らの目的だったのだ。
この部屋は、彼らが私をいじめるために、用意していたのだろうか。私を絶望の淵に突き落とすために。私は、彼らの悪意の深さに、吐き気を催した。
だが、この暗闇の中で、私の決意はさらに固まった。彼らが私を閉じ込めたこの場所で、私は彼らを閉じ込める計画の最後の仕上げを考える。スマートフォンの明かりをつけ、私は録音アプリを起動した。この経験もまた、結婚式で流す「証拠」の一つになる。
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