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チャプター 2 それなら、去るだけ

太字で強調された見出しが、浅野葵の目を刺すように痛ませた。

その下には、藤堂奏太と明珠グループの令嬢、篠崎若菜の写真がずらりと並んでいた。二人は真夜中の海辺で潮風に吹かれながら抱き合っており、まるで熱愛中の恋人そのものだった。

しかし、彼の服装は昨夜ここを出て行ったときと全く同じものだった。一瞬、葵は自分が惨めなのか、それともあのお嬢様が惨めなのか、分からなくなった。

彼女はニュース画面を閉じ、奏太のLINEを開いた。トーク履歴は昨日の午後、奏太が「今夜そっちに行く」と送ってきたメッセージで止まっている。

奏太が今になっても最後通牒を突きつけてこないのは、きっとまだ若菜のベッドから起き上がっていないからだろう。

ふぅ、と濁った息を吐き出し、ベッドから起き上がった時には、もう彼女の心は決まっていた。奏太と別れること、彼が切り出さなくても自分から切り出さなければならない、と。

しがみついて懇願するなんて、彼女の流儀ではない。たとえこの数年、奏太への愛が骨の髄まで染み込んでいたとしても。

身支度を済ませ、服を着替えると、急いで会社へ向かった。会社に着くやいなや、異動届を提出した。

異動先はカナダ支社の責任者。今となっては誰も行きたがらないポストだが、今の彼女にとっては、まるで自分に合わせてあつらえられたかのように思えた。

トントン拍子に進むと思っていたのに、会議を終えて戻ってくると、異動申請を却下する旨のメールが届いていた。

彼女は眉をひそめ、すぐに人事部に電話をかけた。しかし、返ってきた答えは彼女をひどく困惑させるものだった。

電話の向こうで、人事部長の倉木茜がやれやれと肩をすくめるのが目に浮かぶようだった。『浅野部長、私にもどうしようもなくて』

『あなたの異動申請は藤堂社長が自ら差し戻されたものですから、私に言われてもどうにもなりません!』

藤堂奏太?

どういうつもり?

今、私が異動を申請することは、彼らにとっても好都合なはずなのに。

とはいえ、電話口で茜に『分かりました、藤堂社長に直接伺ってみます』と告げるしかなかった。

電話を切り、少し考えた後、やはり奏太のオフィスへと足を向けた。彼女がオフィスで奏太と直接顔を合わせることは滅多にない。

そのため、彼女がやって来ると、筆頭秘書の桑原里佳は目を丸くした。今日のゴシップ記事を思い出し、里佳は葵が騒ぎを起こしに来たのだと思い、顔に浮かべた笑みがたちまち強張った。

「浅野部長、何か御用でしょうか?」

「社長にお会いしに来ました、お取次ぎをお願いします」 葵は笑みを浮かべ、丁寧で礼儀正しい口調で言った。

里佳は奏太と葵の関係を知っていたので、彼女のあまりに落ち着いた様子に、かえって驚いていた。

彼女が内線で奏太に来客を告げると、電話口から『通せ』という彼の声が聞こえた。

葵が中に入ると、奏太はデスクで帳票に目を通していた。シャツの袖はたくし上げられ、引き締まった前腕が露わになり、その筋肉のラインは滑らかだった。

「社長」 葵は奏太のデスクの前に立つと、部下としてのあるべき分をわきまえた口調で言った。「お伺いしたいのですが、なぜ私の異動申請を却下されたのでしょうか?」

葵は少し納得がいかない様子で言った。「私は社内で最年少の営業部長ですし、業績も全部門の中でトップクラスです、私が適任だと思いますが」

奏太は支配欲が極めて強い男だ。葵が彼のそばに長年いられたのは、彼の前で子猫のようにおとなしく従順でいたからに他ならない。

葵が彼に逆らうのは、これが初めてだった。

彼は口元を引き締めると、脇に置いたヒュミドールから葉巻を一本抜き出した。火を入れる仕草も、どこか嗜み深く、ゆっくりと紫煙を吐き出した。

「行きたいのか?」

葵は頷いた。「はい」

「理由を言え」

「先ほど申し上げた通り、私が最も適任かと存じます」

奏太は目を細め、ふんと鼻で笑った。「お前は賢い女だ、俺が聞いているのがそういうことじゃないのは分かっているだろう」

今度は葵が少し間を置いてから、再び顔を上げ、奏太の鋭い視線をまっすぐに見据えた。「藤堂社長、あなたは間もなくご婚約なさいます、私が今ここを去ることは、あなたにとっても、篠崎さんにとっても、そして私にとっても、最良の結果です」

なんと物分かりの良いことか。パトロンに見捨てられると知っても騒ぎ立てるどころか、自ら身を引くというのだから。

普通の男なら、感謝の涙を流すことだろう。

だが、奏太は明らかに普通の男ではなかった。葵の言葉を聞いても、彼の顔には感動の色どころか、むしろ不気味なほどの険しさが浮かんだのだから。

彼は手の中の葉巻を揉み消すと、立ち上がって葵の目の前まで歩み寄った。その大きな体が、絶対的な威圧感を放つ。

「つまり、お前が俺を捨てる、と?」

ありえない!

婚約するのは彼のほうなのに、どうして私が彼を捨てることになるの?

彼の体から漂う葉巻の匂いに悪態をつこうとしたその時、奏太が突然彼女を抱き寄せ、自分と視線を合わせさせた。

そして、葵は奏太の冷たい瞳に暗い光がよぎるのを見た。わずかに動く喉仏も相まって、葵は思わず身を引いた。

奏太のそばに長くいて、彼が欲情した時にどんな顔をするか、彼女はよく知っていた。まさに今のように。

でも、ここはオフィスなのに……

だが次の瞬間、奏太は彼女に考える暇も与えず、身を屈めてその唇を塞いだ。激しく、荒々しいキス。こういうことにおいて、葵はこれまで一度も奏太に敵ったことがない。

奏太に抱きかかえられてソファに向かう頃には、彼女はもう総崩れになっていた。

どうにか理性を少し取り戻したものの、声は震えていた。「藤堂社長、ここは会社です……」

続きを読みますか?

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全167章

  1. 第1章チャプター 1 婚約者は私じゃない
  2. 第2章チャプター 2 それなら、去るだけ
  3. 第3章チャプター 3 つまり、お前が俺を捨てる、と?

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