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チャプター 3 つまり、お前が俺を捨てる、と?

藤堂奏太は、その言葉を聞くと、欲に満ちた瞳を浅野葵の唇にしばらくさまよわせ、軽く鼻を鳴らした。そして、手を伸ばして彼女のシャツの襟元のボタンを外した。

葵の胸元が大きく露わになり、奏太の瞳の色はさらに暗くなった。

コンコン……

ちょうどその時、ドアをノックする音が響いた。 奏太は不機嫌そうに顔をドアの方に向け、興を削がれた苛立ちを込めた低い声で言った。「失せろ!」

「藤堂社長、篠崎さんがお見えです!」

藤堂奏太のアシスタントである颯太の声だった。葵がその言葉を聞き終えると、奏太の動きが止まり、そしてためらうことなく彼女の上から身を引いた。

彼は乱れたネクタイを整え、デスクの後ろに戻ると、瞬く間にいつもの冷徹で禁欲的な姿に戻っていた。葵だけが、ソファの前にやや狼狽した様子で取り残された。

なぜか、葵の胸の奥が鈍く痛んだ。

乱れた服を整え、立ち上がろうとしたその時、篠崎若菜がドアを開けて入ってきた。その顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

「奏太、あなたに……」

若菜は言葉を言い終える前に、ソファの前に立つ葵の姿を認め、表情をぴたりと止めた。

しかしすぐに笑みを浮かべ直し、奏太に視線を向けた。「奏太、お仕事の邪魔をしてしまったかしら?」

奏太は彼女を見上げ、その眼差しには葵が一度も見たことのないような甘やかしの色が浮かんでいた。「いや」

そう言うと、彼は葵に視線を移した。「話は終わった。仕事に戻れ」

その口調は、先ほどまで自分を貪っていた男と同一人物とは思えないほど冷淡だった。葵の口の中が苦くなった。「はい、藤堂社長!」

彼女はドアを閉めるために振り返った時、若菜が小走りで奏太の後ろに回り込み、彼の首に腕を回して頬にキスをするのが見えた。「奏太、昨夜はお疲れ様。これ、私があなたのために取った極上の松茸で土瓶蒸しを作ったの。初めての料理なんだから、全部飲んでね!」

その言葉はあまりにも多くの情報を含んでいた。葵はわずかに瞳を揺らしながらドアを閉め、無表情のままエレベーターへと向かった。

オフィスに戻ると、彼女は手で頭を抱えてぼんやりと座り込んだ。脳裏には、先ほどの若菜と奏太の姿が焼き付いて離れず、苛立ちが募った。

現実をとうの昔に受け入れていたはずなのに、先ほどの光景はやはり目に刺さるようだった。

彼女は考えた。もし奏太が自分の、異動申請を認めないなら、自分に残された道は辞職しかない。

だが、恒光グループで長年築き上げてきたキャリアを失うのは惜しい。男を失うのは構わないが、自分の努力で手に入れた地位を失うのは、やはり残念だった。

彼女が考えにふけっていると、アシスタントの林美羽が突然オフィスに入ってきて、複雑な表情で彼女を一瞥した。

葵は物音に気づき、ようやく顔を上げて彼女を見た。「何か用?」

「部長、速水グループの代表が面会に応じてくれました」

速水グループの案件は規模が大きい。彼女が恒光グループで担当しているのは大型機械生産ラインの販売業務だ。この案件は半年以上前から追いかけていたが、あらゆる手を尽くしても速水グループの購買担当者との面会を取り付けることができなかった。

今日ようやく良い知らせが舞い込んだ。彼女は美羽に頷いた。「いつの約束?」

「部長の今夜のご予定が空いていたので、今夜に設定しました」 美羽は卒業してまだ一年ほどの若い女性で、高い位置で結んだポニーテールが溌剌とした印象を与えた。

「分かった」 葵は頷いた。「では、今夜は銀座の割烹で、北海道の旬を集めた極上のコースを仕立ててもらいましょう」

速水グループの購買担当者は北海道出身だ。産地直送の蟹やウニこそ、何よりのもてなしになるはずだ。

美羽は頷いてメモを取ったが、すぐには出て行かず、何か言いたげな様子で葵を見つめ続けた。

「まだ何か?」

美羽は深呼吸を一つし、ようやく勇気を振り絞って言った。「部長、芸能ニュースの欄を見てください。そこに……部長に関する記事が載っているようです」

言い終えると、美羽は逃げるようにドアを閉めて出て行った。

葵は携帯電話を取り出して画面を見た。血色の良かった顔から、みるみるうちに色が失せていく。

なんと、芸能ゴシップ誌が自分と奏太の動画や写真を撮影していたのだ。奏太の顔ははっきりと分かるが、彼女の顔はそれほど鮮明ではない。

しかし、彼女を知る者が見れば、間違いなく自分だと分かるだろう。先ほど美羽が忠告してくれたのも無理はない。

今朝、奏太と若菜の婚約がトレンド入りしたばかりだというのに、今度はこんなスキャンダルが報じられた。すでに好事家たちが葵の個人情報を掘り起こし始めている。

彼女が奏太と付き合っていた時、二人は独身だった。掘り起こされたところで、何も恐れることはない。

しかし、このタイミングでこのような記事が出れば、まともな人間なら誰もが、このネタを流したのは奏太の婚約を破談にして自分が成り上がるためだと考えるだろう!

奏太が最も嫌うのは、駆け引きをすることだ。長年、多くの女性がその手を使って奏太に近づこうとするのを見てきたが、その末路は悲惨なものだった。

三年前、ある容姿端麗な三流女優が同じ手を使った。奏太を利用して自分の知名度を上げようとしたのだ。

だが、次に彼女を見かけた時、その女性はホテルの入り口で受付係をしていた。

彼女は少し考え、颯太にメッセージを送ることにした。

上の階では、奏太が若菜を見送ったばかりだった。振り返ると、颯太が何か言いたげな視線を向けている。彼は眉をひそめ、オフィスに向かって歩きながら言った。「言いたいことがあるなら言え」

颯太は唇を開き、携帯電話を彼の前に差し出した。「ご自身でご覧になった方がよろしいかと。どなたかが、社長と葵さんのスキャンダルを報じています」

「葵さんからメッセージが届いていまして、記事を流したのは彼女ではないとのことです」

「また、退職願のメールも届いており、これ以上ご迷惑をおかけしないよう、できるだけ早く退職を認めていただきたいと申しております」

現在読めるのはここまでです。

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全167章

  1. 第1章チャプター 1 婚約者は私じゃない
  2. 第2章チャプター 2 それなら、去るだけ
  3. 第3章チャプター 3 つまり、お前が俺を捨てる、と?

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