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第3章
大広間へと続く廊下は薄暗く、細かった。鷹司暁が腕を曲げ、静に差し出す。 静はその肘の間に手を滑り込ませた。指先が彼のオーダースーツの生地に触れる。衣服越しに伝わる彼の身体の熱が、突然、強く焼きつくように感じられた。 その熱は物理的な衝撃のように静を打った。脳が一瞬、混乱する。過去の心的外傷が津波のように押し寄せた。 ぼんやりとした壁の照明がかすむ。廊下が歪み、前世のあの凍てつく雪に覆われた東京の街路へと変貌する。 彼女はあの耐えがたい寒さを思い出した。詩織に濡れ衣を着せられ、中村家は一銭も与えずに彼女を追い出した。気温は氷点下二十度だった。 凍える指で健太の番号を押したことを覚えている。電話の向こうで玲奈の甘くくすくす笑う声が聞こえ、そのまま通話が切れたことを。 留守番電話に残された佳代子の声を覚えている。街で死になさい、静。ただ、私のカーペットに血を垂らさないで。 幻の氷が肺を掻きむしる。胸が締めつけられ、息ができない。膝ががくつき、前につんのめった。 鷹司の腕が素早く伸びる。大きな手が彼女の腰をがっしりと掴み、強く引き寄せる。彼女を固い胸に引き寄せ、倒れるのを防いだ。 「怖いのか?」彼の声が耳元で低く響き、深く、確かな重みがあった。 静は顔を上げた。彼の鋭く完璧な顎のラインを見つめる。記憶が再び揺らぐ。 彼女は自分の死体の上に浮かんでいる自分を思い出した。 鷹司が見えた。金融界の非情な帝王が、殺風景な冷蔵庫に立っていた。彼は自分のウールのコートを脱ぎ、凍りついた彼女の遺体にかけた。 彼の専属の武装警備員が中村家の邸宅に突入し、彼女の遺骨を力ずくで奪い取る光景を。 彼が鎌倉の私人墓地に一人立ち、生前ほとんど言葉を交わしたことのない女のために葬儀を執り行う姿を。 彼女は土の重み、死の恐ろしい最終性を思い出した。そして、今日目覚めて息をし、心臓が鼓動しているという、まったくもって理解を超えた衝撃を思い出した。なぜ戻ってきたのか?どうやって? 宇宙は彼女に二度目のチャンスを与え、あらゆる論理を無視した奇跡的な運命の逆転をもたらした。 そしてこの新しい人生で、彼女が確かに信頼できる唯一の男は、彼女がただの記憶にすぎなかった時に慈悲を示してくれたあの男だった。 彼はあの凍りつく墓地に、絶対的な力を持つ孤高の姿で立ち、実の血縁者が拒んだ死の尊厳を彼女に与えたのだ。 現在、静の指は彼の腕に食い込んでいた。関節が真っ白になっている。 彼女は荒い息を吐き、弱さを腹の奥深くに押し込め、首を振った。「ただ、もう手遅れだって気づいただけです」 「彼らの本性を見抜くには手遅れすぎた」彼女は囁き、声は鋼のように固まった。「でも、彼らを破滅させるには十分すぎるほど早い」 鷹司は彼女を見下ろした。彼の視線は彼女の目の端に浮かぶかすかな赤みに留まった。瞳孔に凶暴で恐ろしい暗い光が走る。 秘書の声が無線機から響く。「社長。大広間のスクリーンが再起動しました。報道陣は配置についています」 鷹司は手を上げ、彼女のレースのベールの端をそっと整えた。その優しい触れ方とは対照的に、彼の周囲には致命的なオーラが漂っていた。 「この扉を押し開けたら」鷹司が低く嗄れた声で言う。「お前はこの東京の社交界の女主人だ。二度と誰にも頭を下げさせはしない」 オルガンの音楽が突然止んだ。一瞬後、荘厳で威圧的な王室の結婚行進曲が壁を震わせ始めた。 廊下の突き当たりにある重厚な樫の扉が、二人の介添人によってゆっくりと開かれた。何百ものカメラのフラッシュが放つまばゆい白い光が、暗い廊下に溢れ込んだ。 静は背筋を伸ばした。顎を上げ、その瞳を氷の欠片のように尖らせる。彼女は戦場に足を踏み入れる女王のように見えた。 「お取引よろしくお願いします、叔父様」彼女は囁いた。 鷹司はその言葉を聞いた。彼の顎が微かに引き締まり、暗い所有欲のこもった笑みが唇に浮かんだ。 「今まさに起草されている法的書類によれば」と鷹司は訂正した。「お前は私を夫と呼ぶことになる」 扉が完全に開かれた。千の目とカメラレンズが一斉に彼らを捉えた。
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