メインコンテンツへスキップ

―― 高坂蓮美――

「蓮美、どこにいたんだい?探したんだぞ。僕の可愛い婚約者」

英二が私を見つけて駆け寄ってきた。その顔には、私がよく知る魅力的な笑顔が浮かんでいる。腰に手を回し、優しい口調で囁く声は、先ほど聞いた冷酷な声とは全くの別人だった。

鳥肌が立つ。

吐き気を必死で抑え、私は笑顔を貼り付けた。

「少し、気分転換に。英二さんも、お友達と盛り上がっていたでしょう?」

私の声は、自分でも驚くほど平静だった。

「ああ、そういえば、栞菜がもうすぐ来るんだ。僕が誘ったんだ」

英二は平然と言い放った。私の婚約祝いのパーティーに、浮気相手を呼んだというのか。

その瞬間、会場の入り口がざわめいた。

片桐将太に伴われて現れたのは、白いドレスをまとった華奢な女性——西井栞菜だ。

「あれが西井栞菜さん?美人ね」 「本当に可憐な雰囲気だわ」

周囲から感嘆の声が上がる。栞菜は、まるで当然のように英二の隣に座り、彼の腕に手を絡ませた。

私への、明確な宣戦布告だった。

「何よ、あの女!」

親友の藤岡理香子が、私の隣で怒りに震えた。

「ここは蓮美の婚約祝いのパーティーよ!図々しいにもほどがあるわ!」

理香子は栞菜に向かって歩き出そうとした。私は彼女の腕を掴んだ。

「理香子、落ち着いて」

私の声は、冷徹なほど静かだった。

英二は眉をひそめ、栞菜を庇うように前に出た。

「理香子、何をするんだ。栞菜は僕の友人だよ」

「友人が婚約者の隣に座ってイチャつくわけないでしょうが!」

理香子が栞菜に掴みかかろうとした瞬間、私は彼女の腕を強く掴んで制止した。そして、英二をまっすぐに見据える。

「英二さん、説明して。この女性は一体誰なの?」

私の声は、感情を一切含まない冷たい響きを持っていた。英二は狼狽し、視線を泳がせる。

「蓮美、これは……誤解だよ。栞菜はただ……」

その時だった。

「皆、少し落ち着こうぜ」

片桐将太が、場の空気を変えようと声を上げた。

「こんな時こそ、楽しいゲームで気分転換しないか?スマホルーレットゲームなんてどうだ?」

テーブルの中央にシャンパンのボトルが置かれる。ボトルが指した者が、スマホのギャラリーにある写真を一枚公開する——シンプルな罰ゲームだ。

理香子と片桐が、意味ありげに視線を交わした。

英二はこの提案に渋々同意した。この場から逃れたい一心だったのだろう。

――

ボトルがゆっくりと回転し、私を指した。

私はスマホを取り出し、ギャラリーを開く。

最初に映し出したのは、三年前の婚約時に撮った英二とのツーショット写真だった。彼の優しい笑顔と、私の幸せそうな顔。

会場から「素敵!」という声が上がる。

私はすぐにその写真をスクロールした。

次に映し出されたのは、あるネットショッピングサイトの購入履歴のスクリーンショット。限定モデルのペアウォッチ——英二が欲しがっていたあの時計だ。

「蓮美、これは……ありがとう。でも、別にいいんだよ、気を使わなくて」

英二が慌てて取り繕う。

私は冷たい視線を彼に向けた。

「いいえ、購入者の欄をよく見てください。それから——配送先の住所も」

スクリーンに拡大表示された購入明細。

購入者:角田英二。配送先:西井栞菜様方。

会場が、一瞬にして静まり返った。

英二と栞菜の顔から、血の気が引いていく。彼らは凍りついたように動かない。

「これは、私があなたのタブレットから見つけた履歴です。私へのプレゼントかと思って開いたら——違う方への贈り物だった」

私は彼らの顔を交互に見つめた。

「英二さん、私に内緒で、ずいぶんと高価な贈り物をなさったんですね」

彼らの偽りが、今、白日の下に晒されたのだ。