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―― 高坂蓮美――

重苦しい沈黙の中、片桐が再びボトルを回した。

ボトルは勢いよく回転し、ゆっくりと速度を落として——西井栞菜を指し示した。

栞菜の顔が、一瞬で青ざめる。

「え……私ですか?私、そういうのはちょっと……」

震える声で拒否しようとする栞菜に、理香子がすかさず睨みを利かせた。

「ふざけないで!あんたが英二を横取りした証拠、早く見せなさいよ!」

「理香子、やめろ!栞菜にそんなことを求める権利はない!」

英二が立ち上がり、栞菜を庇おうとする。

私は彼の腕を掴んだ。

「心配しないで、英二さん。私が代わりに操作してあげるから」

英二の耳元でそう囁き、栞菜の顔に視線を突き刺す。英二は私の言葉の裏に隠された意味を察したのか、顔色を変えて椅子に座り直した。その動きは、操り人形のようにぎこちなかった。

栞菜は、英二が離れていくことに動揺したのか、私を憎悪の目で睨みつけた。その瞳には、これまで隠されていた狂気が垣間見える。

彼女は震える手でスマホを操作した。

――スクリーンに映し出されたのは、英二と栞菜のLINEのやり取り。

「英二さん、蓮美さんのこと、本当にどうでもいいの?」

「もちろん、栞菜だけだよ。あいつはただの飾りだから。愛してるのは栞菜だけだ。」

会場のあちこちから、ざわめきが起こる。

「まさか……英二がそんなことを……」

友人の一人が、悲痛な声で呟いた。

私は静かにスクリーンを見つめていた。感情はすでに怒りを超え、深い虚無感に包まれている。

「西井さん、あなたは本当に英二さんを愛しているの?それとも、ただ私から彼を奪いたいだけ?」

私の問いに、栞菜は逆上した。

「私が英二さんを愛してるのは当然よ!私たちは真実の愛で結ばれているの!あなたなんか、英二さんにとって邪魔なだけよ!」

彼女はさらにスマホを操作した。

スクリーンに映し出されたのは、三年前の英二と栞菜の親密なツーショット写真。エッフェル塔を背景に、二人は笑顔で抱き合っていた。

「これを見て!これは三年前、英二さんとパリに行った時の写真よ!」

栞菜は薬指にはめられた豪華なダイヤモンドの指輪を誇示するように掲げた。

三年前——あの時、英二は私に「仕事で出張だ」と言って、私のもとを離れていた。その裏で、栞菜とパリ旅行に行っていたのか。

「この指輪も、英二さんがその時に私にくれたもの!あなたのその古臭い婚約指輪とは意味が違うのよ!」

栞菜は、私の薬指に光る高坂家伝来の婚約指輪を嘲笑した。

私は自分の指輪を見下ろした。それは、確かに高坂家の象徴だった。愛の証ではなく、家同士の絆を示すもの。

栞菜はさらに攻め立てた。

「それに、これを見て!」

スクリーンに映し出されたのは、私が高熱で寝込んでいた日の英二とのLINEのやり取り。

「蓮美が熱を出して大変なんだ。でも、栞菜といると癒されるよ」

あの日、英二は「仕事が忙しいから」と病院にも見舞いにも来なかった。

栞菜はさらにスクロールした。次のスクリーンショット——私の誕生日の写真。英二が私にプレゼントしてくれたケーキと同じデザインのケーキが、二つ並んでいる。その前で笑う英二と栞菜。

「英二さんは、あなたの誕生日を私とも祝っていたのよ!しかも、私に『真のヒロインは栞菜だ』って言ってたの!」

理香子が、怒りで震えていた。

「信じられない!英二、あんた最低だよ!蓮美、こんな男、すぐに捨てなさい!」

私は理香子の手を優しく握り、彼女を制止した。

そして、冷たい視線を英二に投げかける。

「英二さん、まだゲームは終わってないわ。次のルーレットは、私が回す番よ」

私はボトルを掴み、英二をまっすぐに見つめた。

「この日を、あなたは覚えてる?」

私の声は、怒りではなく、深い悲しみに満ちていた。