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チャプター 2 反撃

「奥様、申し訳ございません!わざとではなかったんです!」

吉川琴音は慌てて階段を駆け下りてきた。

「とりあえず、そこの適当な袋にでもお詰めしましょうか?」

彼女は以前から寧々が目障りだった。どこの馬の骨とも知れない田舎娘のくせに、図々しくも玉の輿に乗って、いっぱしのお嬢様気取りでいるのが我慢ならなかったのだ。

相良司臣は眉をひそめ、琴音を叱責した。「手際が悪いな。礼儀もわきまえんのか!」

スーツケースの中身は数着の安っぽい服ばかりで、まともな宝飾品など1つも入っていなかった。

どうやら長年、相良家から渡された生活費にはほとんど手をつけず、質素に暮らしていたらしい。

だが残念なことに、だからといって彼が彼女を愛せるわけではなかった。

「青葉の荷解きが先だ。床に散らばったガラクタは、適当な袋にでも突っ込んでおけ」

司臣は床の箱を見下ろし、嫌悪感を露わにした。

「スーツケースなら、明日執事に新しいものを買わせてやる」

寧々は自嘲気味に口角を上げた。「このトランクはね、昔、私たちが一緒に逃げた時、誘拐犯から盗み出したものよ。これが水に浮いてくれなかったら、あなたも私も、とっくに溺れ死んでいたわ」

長年、彼女はこの箱を大切に守ってきた。

だが今、無残に砕け散ったこのトランクは、まるで今の2人の結婚生活を象徴しているかのようだった。

司臣は鼻で笑った。「そのお涙頂戴の作り話は、祖父には通用しても俺には通用しないぞ」

彼は幼い頃に誘拐された記憶を失い、何も思い出せなかったが、直感的に、自分を救った少女が寧々であるはずがないと確信していた。

「さっさと彼女の荷物を片付けろ!」

名指しされた琴音は「はい」と返事をした。

だが片付けるふりをしながら、わざと足で服を踏みつけ、泥だらけにした。

「寧々様、大奥様はいつも私たちに、人間は服と同じだと言っておられます」

琴音は大奥様という強力な後ろ盾があるため、その口調はすっかり強気になっていた。

「中身が汚れていれば、いくら洗っても決して綺麗にはならないって!」

これまで寧々は、彼女に十分すぎるほど良くしてやった。

琴音は大奥様の遠縁にあたるからだ。

かつて琴音の失態で、相良家が鷹司家の長男・景介の機嫌を損ねた時もそうだった。寧々が自ら出向き、香水に関する専門知識を武器に両足が不自由な鷹司の若様と交渉し、相良家のために市中心部の商業用地を勝ち取ってやったのだ。

だが、かつて寧々にすがりついて感謝していた琴音は、今や虎の威を借る狐のように、すっかりつけ上がっていた。

結局のところ、すべては大奥様の寧々に対する態度が冷たくなったせいだ。

「服が汚れてしまったら、確かに洗っても落ちないわね」

寧々は司臣を真っ直ぐに見据えて言った。「だから、もういらないわ」

あんな地味で冴えない服、もともと彼女の好みでも何でもないのだ。

「でも、過ちを犯した人間は罰を受けなければならない」

彼女が顔を上げると、その漆黒の瞳は底知れぬ深みを湛えていた。

その視線に、司臣は一瞬、得体の知れない違和感を覚えた。寧々はこれまでずっと温和で従順だった。今のように、背筋が凍るほどの威圧感を放つことなど一度もなかったからだ。

琴音もただならぬ雰囲気を察したが、すぐに無実を装って言った。「私は相良家の人間です。一ノ瀬様はもう離婚されるんですから……」

パチン!

琴音の言葉が終わるより早く、彼女の左頬に強烈な平手打ちが炸裂した。

彼女は信じられないという顔で寧々を睨みつけた。「何で私を殴るのよ!?」

「私の気分よ」

「こんなこと、大奥様に知られたら……」

パーンッ!

再び、重く乾いた音がホールに響き渡った。

今度は右の頬。これで両頬が綺麗に対称に、赤く腫れ上がった。

琴音はその衝撃で床に無様に尻餅をつき、今度こそ本当に足首を捻挫した。頬の骨が砕けたかと思うほどの激痛に悲鳴を上げる。

「若様ぁ!この女、横暴すぎます!」

しかし、彼女の泣き叫ぶ声など意にも介さず、寧々は一歩踏み込むと、そのまま琴音の首を鷲掴みにし、胸元から強引にネックレスを引きちぎった。

「この二発のビンタは、私のトランクを壊して、服を汚した代償よ」

寧々が万力のような力で首を絞め上げると、琴音は瞬時に顔を鬱血させ、苦痛のあまりボロボロと涙をこぼした。

「そしてここからは、あなたにふさわしくないものを取り返させてもらうわ」

それはダイヤモンドが散りばめられたエメラルドのネックレスだった。たいして高価なものではないが、裏には「寧」という文字が刻まれており、その持ち主が琴音でないことは明らかだった。

「あ、あなた……。これは傷害罪よ!」

琴音は首を押さえて大口を開けて喘ぎ、極度の恐怖から無意識に失禁してしまった。

その瞬間、彼女は寧々という人間を全く知らなかったのだと悟った。首を絞められ、意識が遠のきかけたあの刹那、間違いなく「この女は本気で私を殺す気だ」という本物の殺気を感じたのだ!

だが、寧々はネックレスを取り戻すと、見向きもせずにきびすを返して颯爽と去っていった。

琴音は司臣に哀願した。「若様、彼女の言うことを信じないでください。これは誤解なんです……」

「失せろ!」

司臣は彼女を蹴り飛ばした。

ツンと鼻を突く尿の匂いを嗅いだ瞬間、彼の中の得体の知れない苛立ちは頂点に達した。

「相良家に、手癖の悪いクズは必要ない!」

その頃、寧々はすでに屋敷を出て、親友に電話をかけていた。

『離婚したわ。家も車もM国にあるから、今夜、あなたの家に泊めてもらえる?』

その簡潔な一言に、電話の向こうの秦野詩織は驚愕から狂喜へと変わった。

『マジで!?ついにあのクズ野郎と離婚したのね!寝てる場合じゃないわ!独身復帰を祝って、最高に派手なパーティーを開かなくちゃ! 』

寧々が思わずスマホを耳から遠ざけるほど、詩織のテンションの振り切れた笑い声が響き渡る。

『十方機関の連中が創設者の帰還を知ったら、サーバーがパンクするまでお祭り騒ぎになるわよ!』

続きを読みますか?

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全161章

  1. 第1章チャプター 1 離婚
  2. 第2章チャプター 2 反撃
  3. 第3章チャプター 3 クルーズパーティー

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