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第3章
鷹司家から完全に独立するためには私物を取りに戻らなければならなかった。 雅はあの壮麗で冷たい牢獄のような别墅へと足を踏み入れる。 リビングのソファには義妹の藤本美桜と義母の藤本紀子が座っていた。まるで彼女を待ち構えていたかのように。 テーブルの上には高級ブランドの箱がいくつも並んでいる。すべて暁が「夫の義務」として雅に買い与えたものだ。 美桜は雅の姿を認めるとねっとりとした甘い笑みを浮かべた。 「お姉様お帰りなさい、昨夜はどこに泊まっていたの?暁様がとても心配していたわ」 その偽りの気遣いに雅は吐き気を覚える。彼女は冷たく言い放った。 「あなたには関係ない」 途端に紀子が顔をしかめる。 「雅!なんて口の利き方なの!美桜が心配してあげているのに!」 美桜はテーブルの上の宝石箱を手に取り無邪気を装って蓋を開けた。 「わあ綺麗!これは暁様がお姉様に贈ったネックレスね、でもお姉様は地味だからこんないい物似合わないわよね?」 彼女は紀子に問いかける。 「お母様私がつけてもいいかしら?」 「もちろんよ、雅にはもったいないわ」 紀子は娘を溺愛する顔で笑った。二人は雅の目の前で公然と彼女の所有物を奪おうとしている。 雅の目がすっと冷たくなった。彼女はテーブルに近づく。 美桜がネックレスに手を伸ばした瞬間雅は素早く宝石箱の蓋を閉めた。パタンという乾いた音が響き美桜の指を挟みそうになる。 「きゃっ!」 美桜は悲鳴を上げて手を引っ込めた。 「他人の物に勝手に触らないで」 雅の静かな声がリビングに響く。彼女は呼び出しベルを押しメイドの田中和子を呼んだ。 「田中さん、ここに置いてあるプレゼントを全て金庫にしまってください、盗難防止のためです」 「盗難」という言葉を彼女はことさら強く発音した。その視線は真っ直ぐに美桜と紀子を射抜いている。 二人の顔色が見る見るうちに変わっていく。田中は恭しく頭を下げると手際よく品物を片付け始めた。 美桜が悔しそうに立ち上がる。 「お姉様ひどい!私たちを泥棒扱いするなんて!」 雅の口元に嘲りの笑みが浮かんだ。 「あら、泥棒じゃないならどうしてそんなに怒るの?」 彼女は一呼吸おいて言葉を続ける。その声は氷のように冷たい。 「でも他人のものを盗むのはあなたの得意技じゃなかったかしら?」 その一言で美桜の顔から血の気が引いた。彼女が何を言っているのか正確に理解したからだ。 雅は追い打ちをかけるように続けた。 「三浦健斗…………この名前忘れたわけじゃないでしょう?」 それは雅のかつての婚約者の名前だった。そして美桜が策略を巡らせて奪い取った男の名前でもある。 それは藤本家の隠された醜聞であり美桜が最も触れられたくない過去だった。 美桜はわなわなと震え雅を指差したまま言葉を失っている。 紀子が見かねて娘を庇うように前に立った。 「黙りなさい!この恩知らず!健斗様が美桜を選んだのは当然よ!あなたみたいな何の取り柄もない女より美桜の方がずっと相応しいわ!」 その罵声を雅は無表情に聞き流す。ただ滑稽だと思った。 彼女はヒステリックに叫ぶ二人を無視し田中に告げた。 「私の荷物はまとめて部屋の前に置いておいて、後で取りに来る」 そう言うと雅はまっすぐ階段へ向かった。リビングには怒りに震える母娘が残される。 雅の後ろ姿を美桜は憎悪に満ちた目で見つめていた。 紀子は娘を慰めるように肩を抱く。 「大丈夫よ美桜、あんな女すぐに追い出してやるから」 その時美桜の携帯が鳴った。メッセージを確認した彼女の顔に陰険な笑みが浮かぶ。 「お母様、もうすぐお祖母様の誕生日パーティーね、いい考えがあるの」
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