あらすじ
夫のために骨髄を提供し、術後のベッドで過ごしていた時のこと。ふと目にしたのは、今まさにSNSで拡散されている一本の動画だった。
「僕がこの偽りの結婚生活に身を投じたのは、ひとえに彼女を説得し、僕が本当に愛する人のために骨髄を提供させるためだった」
「君を生かすためなら、僕は自分の愛さえも犠牲にできる」
「さようなら、愛しい人」
画面の中、彫りの深い顔立ちのその男は、隣で眠る女性の唇にそっと口づけを落とす。その仕草はどこまでも克己的で、そして深情けに満ちていた。
コメント欄は、感動と称賛の嵐で埋め尽くされている。
「ついに報われたのね。苦難を乗り越えて、これからは愛する人とずっと一緒だ」
「でも、骨髄を提供したあの女性が哀れすぎる。きっと今も、何も知らずにいるんでしょう?」
数ヶ月間、毎晩同じベッドで枕を並べてきた夫の顔。
それを画面越しに見つめる私の脇腹には、太い針を刺したあとの鈍い痛みが、ズキズキと走っていた。
私はその足で、自ら退院手続きを済ませた。
育った施設の仲間たちに別れを告げ、
私が彼の世界から完全に姿を消した、その後のこと。
あれほど私を利用したはずの男は、なぜか血眼になって、地の果てまで私を探し始めたのだ――。
章一覧
全8章
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