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佐伯朋美 POV:

開け放たれた窓から, 冷たい風が吹き込んできた. カーテンが激しく揺れ, 部屋の空気を一層重くする. 海斗は煙草に火をつけ, その煙が彼の顔を覆い隠した. 彼の目は, 煙の向こうで私を見つめているが, その表情は読めない.

「千鶴は, まるで小さな太陽のようだった」

海斗は煙草の煙を吐き出しながら言った.

「いつも明るくて, 俺を元気にしてくれた. お前と違って, すぐに感情的になったり, ヒステリックになったりしない」

彼の言葉は, 私の心を深く抉った.

「仕事で疲れて帰ってきても, 家ではお前の不安定な感情の世話をしなければならない. 正直, 疲れたんだ」

彼は眉間を揉み, 心底疲れているかのように見えた.

「俺も, 疲れたんだよ」

その言葉は, 私の心を氷のように冷やした.

私は呆然と海斗を見ていた. そして, ようやく口を開いた.

「離婚しましょう」

私の声は, 私自身でも驚くほど冷静だった.

海斗は顔を上げ, 私の目を真っ直ぐ見つめた. その目は, 真剣そのものだった.

「朋美, 俺は一度たりとも, お前と別れることなんて考えたことがない」

彼はそう言ったが, その言葉はただの嘘に聞こえた.

「ただ, 少しだけ『息抜き』がしたかったんだ. そうしないと, 俺はもうお前を愛する自信をなくしてしまうと思ったんだ」

彼の言葉に, 私は吐き気がした.

千鶴が, 彼の「息抜き」の場所だったのだ.

私は, あまりにも馬鹿らしくて, 笑いが込み上げてきた.

信じられないという目で海斗を見つめる.

「よくそんな恥知らずなことが言えるわね」

私の声には, 怒りが滲んでいた.

海斗は煙草の煙を吐き出し, 苛立ちと焦りを滲ませた声で言った.

「俺は最初, ずっとお前を支えていくつもりだった. でも, お前は…狂った時, 本当に醜い」

彼の言葉は, まるで鋭いナイフのように私の心を突き刺した. 心がバラバラになるような痛みだった.

私は唇を震わせ, 無理やり笑おうとした. しかし, それは泣き顔よりも醜かった.

「そう. よく今まで我慢してくれたわね. 感謝するわ」

私の声は, 皮肉に満ちていた.

海斗は深いため息をつき, 私を抱き起こそうと腰をかがめた.

「だから, 離婚はしない. 俺たちは夫婦だ」

彼の言葉が途切れた瞬間, けたたましい電話のベルが鳴り響いた. 海斗の携帯だった.

電話の向こうから, 千鶴の焦った声が聞こえてきた.

「海斗さん! 蓮が…蓮が! 」

蓮, という子供の名前が聞こえると, 海斗の顔色が変わり, 彼は慌てて立ち上がった.

私は反射的に彼の腕を掴んだ.

「その子, 誰なの? 」

私の声は, 震えていた.

海斗は私の手を振り払うと, 足早に部屋を出て行った.

私は怒りに震えながら, 彼の後を追った. 病院に着くと, 海斗と千鶴が病室のベッドのそばに立っているのが見えた. ベッドには, 息苦しそうにしている幼い男の子が横たわっていた. 千鶴は海斗の胸に顔を埋めて泣き, 海斗は優しく彼女を慰めていた.

まるで, 「完璧な家族の肖像画」のようだった.

私は, その絵の中に, 場違いな「汚点」として立っている自分を感じた.

「海斗! 」

私の声が, 病院の廊下に響き渡った.

海斗と千鶴は, 驚いたように振り返った. 彼らの顔には, 罪悪感と苛立ちが混じっていた. 海斗は私を邪魔者を見るような冷たい目で睨んだ.

「なぜここにいるんだ? 」

彼の声は, 低く冷たかった.

私は唇を震わせながら, 子供を指差した.

「この子は... 誰なの? 」

私の心の中では, 答えはもう分かっていた. だが, 彼の口からその言葉を聞きたかった. 私たちの14年間の愛が, どれほど価値のないものだったのかを証明してほしかった.

千鶴は怯えたように, 海斗の背中に隠れた.

「今はそんな話をしている場合じゃないだろ. 子供が病気なんだぞ」

海斗はそう言い, 事態を複雑にした私を責めるような目を向けた.

怒りと絶望で, 私の目の前が真っ暗になった. 頭がクラクラする.

私はフラフラと一歩前へ踏み出した.

「答えてよ! 」

私は叫んだ.

海斗は私の叫びを無視し, 千鶴を抱き締めると, 病室へ向かおうとした.

私は彼の行く手を阻んだ. 彼を行かせたくなかった. 私の目の前が霞んで見えなかった. この曖昧な地獄から, 私を解放してほしかった.

「邪魔だ. どけ」

海斗の声は, 冷酷だった.

私は首を横に振った.

彼は力ずくで私を突き飛ばした. 私はバランスを崩し, 冷たい病院の床に倒れ込んだ. 呼吸が苦しい.

海斗は振り返ることなく, 千鶴と共に廊下の向こうへ消えていった.

冷たい床が, 私の心臓の奥深くまで凍らせていく.

涙はもう出なかった. 私の心の中では, 悲鳴が響き渡っていた.

私は震える足で立ち上がり, もう一度, 彼らの後を追った. もうこれ以上, 真実から逃げるわけにはいかない.

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読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全13章

  1. 第1章第1章
  2. 第2章第2章
  3. 第3章第3章

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