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第2章 ゴミ拾いが好きだからって、他人もそうだとは限らない
「離婚?」
「しかも200億円の慰謝料ですって?」
松本若菜は驚いたように口元を押さえ、わざとらしく後から気づいたふりをして、慌てて鈴木知恵の方を向き、作り笑いを浮かべた。「あら、あなたが遼真の面倒を見ていた鈴木さんだったのね。鈴木さん、ごめんなさい。その格好じゃ、てっきり家のお手伝いさんかと思ってしまったわ。でも、鈴木さん、200億円なんて、ちょっと欲張りすぎじゃないかしら……」
言葉遣いは丁寧だが、その一言一言が知恵を嘲り、彼女が場違いな存在であることを示唆していた。
「若菜、謝る必要はない。もともと彼女が君の居場所を奪ったんだ」
田中遼真の瞳には若菜への庇護の色が満ちていたが、その声にはわずかな怒りが隠されていた。
やはり、彼女が自分と結婚したのは、田中家の財産目当てだったのだ。そして今、この三年の世話を盾に、自分に恩義を押し付けようとしている!
遼真は、傍らの中村健二が用意していた書類を受け取ると、知恵の目の前に叩きつけた。冷たい顔で言い放った。「君の要求は飲んだ。これが作成済みの離婚協議書だ。さっさとサインしろ」
ここまで言われて、目の前に離婚協議書を突きつけられては、知恵に迷いはなかった。ペンを手に取り、ためらうことなく自分の名前を書き記した。
遼真の目に嫌悪の色がよぎった。やはり知恵は、あの200億円の慰謝料目当てで、最初から金のために自分に近づいたのだと、確信を深めた。
知恵はペンを置くと、くるりと背を向け、まっすぐ自分の部屋へと向かった。手早く荷物をまとめ、スーツケースを引いて玄関へと歩き出した。
屋敷の使用人たちは、彼女が追い出される元妻であることを見て取っていた。重そうなスーツケースを引く彼女に、誰も手を貸そうとはせず、冷たい視線を向けるばかりだった。
彼女が玄関にたどり着いた時、背後から遼真の声が聞こえた。「待て」
知恵が振り返ると、わずかな戸惑いの色が浮かんだ。彼は淡々と言葉を続けた。「明日、役所に行って離婚手続きを済ませるのを忘れるな」
「ええ」
その一言を残し、知恵は田中家の屋敷の門をくぐった。
田中家を出て、彼女は振り返り、高くそびえる冷たい鉄の門を見つめた。そして、長く濁った息を吐き出した。
さようなら、この身を捧げたのに、残ったのは心底からの失望だけだった場所。
これからは、知恵は、自分のためだけに生きる!
スーツケースを引きずりながら歩き出した。知恵は携帯電話を取り出し、三年間封印していた番号に電話をかけた。
「美優、戻る準備ができたわ」
「本当ですか、ボス?」
「やった!ボスがいないこの三年間、どれだけ退屈だったか!」
「ボスが戻ってきてくれれば、やっとこの日々にも希望が持てます!」
電話の向こうから聞こえる興奮した弾む声に、知恵はかすかに口元をほころばせた。足を止めることなく、まっすぐ自分の元の住まいへと向かった。
——
翌日、役所に行く前に、知恵は黒のロングドレスに着替えた。風になびくウェーブのかかった髪を肩に流し、顔には華やかで魅力的なメイクを施した。
以前は、田中由美の「田中遼真は白い服の女性が好きなのよ」という一言のために、三年間、白一色の服だけを着てきた。その地味で色気のない装いは、まるで過去三年間の生活そのものだった。
知恵は役所に到着した。
門の前で待っていた遼真は、これほどまでに華やかで魅力的な知恵が歩いてくるのを見て、思わず見とれてしまった。
普段の知恵はいつもすっぴんで、彼が彼女のこんな姿を見たのは初めてだった。
「何を呆けているの? 離婚手続きに来たんじゃないの?」
知恵は彼の見とれている様子に気づき、わずかに眉を上げ、淡々とした口調で促した。
遼真ははっと我に返り、心の奥底に生まれた奇妙な違和感を押し殺すと、知恵の後について役所に入り、受付カウンターへと向かった。
二人がすべての書類を提出すると、職員からこう告げられた。「ご提出いただいた離婚届には証人の署名が不足しておりますため、現時点では受理できません。お手数ですが手続きを補っていただき、来月改めて書類の確認が取れましたら、登記にお越しください」
知恵は途端に苛立ちを覚えた。今すぐにでも離婚届を受け取り、遼真と完全に縁を切りたいと思っていたからだ。
手続きが済んだと知ると、知恵は一秒たりともその場に留まらず、さっさと役所を出て行った。その潔い態度には、未練のかけらもなかった。
門の前で待ち構えていた若菜は、知恵が晴れやかな顔で出てくるのを見て、途端に顔を曇らせた。足早に彼女の前に立ちはだかり、険しい口調で警告した。「鈴木知恵、警告しておくわ。遼真を誘惑して、彼の気持ちを変えようなんて思わないことね。その下心、さっさとしまいなさい!」
知恵は、まるで敵に厳戒態勢を敷くかのような彼女の様子を見て、思わず笑ってしまった。
「あなたがゴミ拾いが好きだからって、他人もそうだとは限らないわ」
「あなた!」若菜は怒りで顔を真っ赤にし、言葉も出なかった。
彼女が顔を上げた時、ちょうど遼真が役所の門から出てくるのが見えた。とっさに一計を案じ、体を後ろに倒すと、みっともなく地面に尻もちをついた。片手で後ろを支え、か弱いふりをした。
彼女の瞳はみるみるうちに涙でいっぱいになり、哀れなほどか弱い様子で知恵を見上げた。声を詰まらせて言った。「知恵、あなたの気持ちが穏やかじゃないのは分かっているわ。私を突き飛ばして憂さ晴らしするなら、それも構わない。でも、どうして遼真をゴミなんて言えるの?」
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