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第2章
真締めは浴室から聞こえる水の流れる音で目を覚ました。まだぼんやりとしたまま、目を開けた。 部屋を見渡すと、そこはひどく散らかっていた。 昨夜は一回で終わったわけではなかった。天井まで届く大きな窓際、キッチンカウンター、ソファーの上など、あちこちで続きがあったのだ。 彼女は、まるで心が崩れ落ちそうなほど動揺していた。 ベッドの隣はもぬけの殻だったが、シーツに微かに残る白檀の香りが、あの男の存在を証明している。 胃がぎりりと痛んだ。 真結は、床に散らばった服をかき集め、震える手で身につけた。 彼女の頭の中にはただ一つの考えしかなかった。逃げろ! しかし、着替えを終えてベッドから起き上がった途端、足の力が抜け、彼女は危うく床に倒れそうになった。 その時、バスルームのドアが開き、男が出てきた。 上質なカシュクールのシャツを身にまとい、髪はシャワーを浴びた後らしく濡れている。 明るい場所で、初めて男の顔をはっきりと見た。その端正な顔立ちには、見覚えがあった。 拓海と並んで写っていた家族写真。 古俣家の当主である源一郎氏の弟。拓海の叔父にあたる人。 「まさか……あなたが……大和さん……?」 真結の顔から、急速に血の気が引いていく。 古俣大和は驚きもせず、静かに頷いた。 「やっと気づいたか」 その落ち着き払った態度に、真結は頭が真っ白になった。 なぜ叔父が?明子さんの策略の本当の意図は、何? 大和は、テーブルに置かれていた水のグラスを真結に差し出した。 真結は恐怖でそれを受け取れず、思わず後ずさる。 大和は小さくため息をつき、テーブルにグラスを戻した。 「責任は取る。結婚しよう」 「……え?」 真結は自分の耳を疑った。 「け、結婚……?何を言っているんですか!」 「こうなった以上、それが最善の解決策だ」 大和は冷静に告げる。 「お前にとっても、俺にとっても」 「拓海さんはどうなるんですか!」 拓海の名を出すと、大和は冷たく言い放った。 「拓海は関係ない、これは、俺とお前の問題だ」 その時、ドアが激しくノックされた。 「真結さん!起きてるの!?」 外から聞こえてきたのは、明子の甲高い声だった。 真結の顔が絶望に染まる。最悪のタイミングだ。 大和は落ち着いた様子で、真結に「ドアを開けろ」と目で合図する。 真結が躊躇していると、大和が自らドアに向かった。 ドアが開かれると、そこには明子が数人の使用人を引き連れて立っていた。 明子は、部屋の中にいる大和を見て、一瞬驚きの表情を浮かべた。 しかし、すぐに計算された怒りの表情に変わり、ベッドのそばで憔悴しきっている真結に視線を移す。 「まあ!大和!あなた、なんてことを……!」 明子が芝居がかった悲鳴を上げた。 後ろに控えていた使用人たちが、ひそひそと囁き始める。 明子は真結に駆け寄り、その肩を抱いた。 「可哀想に……!こんな酷い目に遭って……!」 抱きしめるふりをしながら、明子は勝ち誇った笑みを浮かべている。 真結は、明子の体から昨夜自分が飲まされたワインと同じ香りがするのに気づいた。 その偽善に、真結は吐き気を覚えた。 明子はゆっくりと立ち上がり、大和を指差して激しく非難する。 「兄さんに、なんと申し開きをするつもり!?」 大和は、明子のヒステリックな非難を冷静に受け流し、ただ静かに真結を見つめている。 その瞳の奥の色は、真結には読み取れなかった。
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全70章
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