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第3章
「なんてことをしてくれたの!」 明子は、床に泣き崩れるふりをして、大げさに嘆いてみせた。 そのわざとらしい演技を、大和は冷めた目で見下ろしている。 「全ての責任は、私にある」 大和が、動じることなくはっきりと断言した。 明子は一瞬、彼があっさりと認めたことに驚いたようだったが、すぐに口元に満足げな笑みを浮かべた。計画通りだと、顔に書いてある。 大和は明子の横を通り過ぎ、真結のそばに歩み寄った。 使用人たちの好奇の視線が、三人に突き刺さる。 大和は真結の耳元で、他の誰にも聞こえない声で囁いた。 「俺に全ての責任を押し付けろ。お前は被害者でいろ」 真結は大和の言葉の意図がわからず、混乱して彼を見つめた。 彼の瞳の奥に、冷たい計算とは別の何か、庇うような色が見えた気がして、さらに戸惑う。 その二人の間に、明子が割って入った。 「さあ、真結さん、こちらへ。私が守ってあげるから」 そう言って、明子は真結の腕を強く掴んだ。 その力強い腕力に、真結は彼女の隠された怒りを肌で感じた。 明子は使用人たちに向き直り、釘を刺す。 「皆、いいわね。見たことは当主様の前で、正直に話すのよ」 使用人たちは怯えたように頷いた。彼らが明子の筋書き通りに偽証することは、火を見るより明らかだった。 「さあ、行きましょう。兄さんの前で、全てをはっきりさせなければ」 明子は真結の腕を引きずるようにして、部屋を出ていく。 真結は抵抗もできず、まるで罪人のように連行されていった。 ちらりと振り返ると、大和が静かに後を追ってくるのが見えた。 長い廊下を歩かされながら、真結はこれから起こるであろう屈辱的な尋問を想像し、恐怖で体が震えた。 廊下の両脇に立つ他の使用人たちが、好奇と軽蔑の入り混じった目で自分を見ている。 広間の大きな扉の前に着いた。 中からは、厳格な男性の声が聞こえてくる。当主・古俣源一郎の声だ。 明子は扉を開ける前に、真結に囁いた。 「いいこと?あなたは何も悪くない。大和が無理矢理……分かっているわね?」 それは、命令だった。 真結は明子の偽善に反発を覚えたが、何も言えなかった。 明子が重い扉を押し開ける。 広間の中央には、厳格な面持ちの古俣源一郎が座っていた。 その周りには、古俣家の親族たちが数人、厳しい表情で並んでいる。 その中に、婚約者だった拓海の姿もあった。 しかし、彼は心配するどころか、困惑した顔で真結からふいと目をそらした。 その態度に、真結の心は完全に凍りついた。 明子は源一郎の前に進み出て、涙ながらに訴える。 「兄さん!大変なことです!大和が真結さんを……!」 源一郎の鋭い視線が、明子に引きずられてきた真結に突き刺さる。 その視線に、同情の色は一切なかった。家の名を汚した者への、冷たい怒りだけがあった。 源一郎はテーブルを拳で強く叩いた。 「大和を呼べ!」 その怒声と同時に、広間の入り口に静かに立っていた大和が、ゆっくりと中へ足を踏み入れた。 全ての視線が、彼一人に注がれた。
章一覧
全70章
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