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―― 川端花純 ――

私は弁護士事務所を訪ね、離婚協議書の作成を依頼した。書類を手に、私は病院へと向かった。大晴に差し入れでもしようと思ったからだ。せめてもの情けだった。

病室のドアの前で、私は足を止めた。蓮音が不器用に大晴の世話を焼いている姿が見えた。蓮音は彼に申し訳なさそうに謝っていた。

「私、不器用でごめんなさい……。」

大晴は優しく蓮音を慰めた。

「蓮音は昔から不器用なところがあったもんな。気にしなくていい。」

大晴の顔は、かつて私に向けられたことのないほど優しかった。彼は自分の怪我などどうでもいいと言いたげに、蓮音を安心させようとした。

蓮音は、大晴の怪我で彼のキャリアが影響を受けるのではないかと心配し、泣き出した。

「大晴さんの将来が、私のせいで……」

大晴は蓮音を抱きしめようとして、しかし、寸前で手を止めた。周りの目があることを気にしたのだろう。彼はポケットからハンカチを取り出し、蓮音に差し出した。

「俺がキャリアを捨てたのは、蓮音とは関係ない。」

彼はそう言って、やがて蓮音のために商社の次期社長というエリートの座を捨て、彼女が経営する高級フレンチレストランの支配人になることを話した。

蓮音は驚きの声を上げた。

「私のために、そんな……?」

彼女は感動したように大晴の胸に飛び込んだ。大晴は一瞬ためらった後、彼女を抱きしめ返した。

その光景は、私の心を深く切り裂いた。私の心臓は、まるでガラスのように砕け散った。痛みで呼吸が止まるかと思った。私は持ってきた差し入れをそっとドアの横に置き、音を立てずにその場を去った。

病院の廊下を歩いていると、大晴の会社の同僚である村上さんに会った。彼は私に気づき、声をかけてきた。私は大晴の容態を簡単に説明した。村上さんは急ぎの用があるらしく、大晴に渡す書類を私に託して去っていった。

私は村上さんから託された書類に目を通した。そこには、大晴が商社の次期社長の座を辞任し、蓮音のレストランの支配人に就任するという内容が書かれていた。彼のキャリアの放棄は、すべて蓮音のためだった。私は、彼の心の中に私の居場所は最初からなかったのだと、絶望に打ちひしがれた。

私は目を閉じ、彼の意気揚々としたスピーチの姿を思い出した。あの頃の彼は、輝いていた。しかし、その輝きは、私のものではなかったのだ。

私は決意した。もう、彼のために立ち止まる必要はない。私は自分の夢を追いかけることにした。すぐに大学時代の先輩である永田麻里栄さんに連絡を取った。

「先輩、私、デザイン事務所を立ち上げたいんです。」

麻里栄さんは快く話に乗ってくれた。

「かすみ、あんたの才能は私が一番よく知ってる。一緒にやろう!」

私は過去を振り返った。長い間、家庭のために自分の夢を諦めていた。しかし、もう違う。私は自分の力で、新しい人生を切り開くことができる。

麻里栄さんは、私たちの新しいデザイン事務所を、大晴のいる東京ではなく、大阪に設立することを提案してくれた。

「かすみ、大阪なら実家から遠い分、心機一転できるだろ? それに、もし何かあったら、私がそばにいるから安心しろ。」

彼女の優しさが、私の心を温めた。私の計画は、静かに、しかし確実に動き始めていた。

だが、運命はまだ、私に最後の試練を用意していた。

続きを読みますか?

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全23章

  1. 第1章第1章
  2. 第2章第2章
  3. 第3章第3章

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