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第3章
車内には再び静寂が戻った。以前よりもさらに息苦しい静寂だった。関根雅史の姿は、あっという間に過去のものとなる。 小夜は窓に寄りかかり、見慣れない街並みを眺めていた。だが、彼女の脳裏に浮かんでいたのは刑務所の中の光景だった。 入所したばかりの頃。人の善意と悪意を見抜けなかった彼女は、表面上は親切な女囚に騙され、危うく他人の罪まで被せられるところだった。 その時の教訓が彼女に教えてくれた。剥き出しの刃は怖くない。本当に恐ろしいのは、笑顔に隠された毒なのだと。 林陸翔の嫌悪は剥き出しの刃だ。人を傷つけるが、少なくとも裏表はない。 そして、関根雅史の優しさと「君のため」という言葉は、毒を塗った蜜だ。五年前、彼女はその毒で一度死んだ。 二度も同じ手に引っかかるつもりはない。だから、先ほどの選択に迷いはなかった。 陸翔はバックミラーで密かに小夜の様子を窺っていた。 彼女の表情は終始変わらない。凪いだ水面のように静かだ。それが陸翔をどうしようもなく苛立たせ、そしてほんの少しだけ不安にさせた。 彼の記憶によると、小夜はいつも積極的に彼のもとに近づき、彼に懐きようとしていた。 彼女が家にいた三年間、彼の長年の胃の病気も和らいだ。しかし、彼女が刑務所に入ってからは、彼はよく深夜に胃の痛みで目を覚ますようになった。 今日、彼女が刑務所から出所したと知って、彼は実際、少し嬉しく思った。彼女は、自分を見たらきっと喜んでくれるだろうと思っていたのだ。また、これまでに受けてきた苦労を泣きながら話す覚悟もしていた。 彼女の無視や冷淡さに直面するなんて、全く思ってもみなかった。 「ずいぶん偉くなったじゃないか。関根雅史まで袖にするとはな」 陸翔は耐えきれずに口を開いた。口調は相変わらず刺々しい。 小夜はゆっくりと目を開け、バックミラー越しに兄の視線と合わせた。 「あなたには関係ない」 その声は小さかったが、拒絶するような響きがあった。 陸翔は言葉に詰まった。ハンドルを握る手に力が入り、青い血管が浮き出る。 怒鳴りつけたい衝動に駆られた。だが、彼女が迷いなく自分についてくることを選んだ場面を思い出すと、怒りは奇妙な感覚に押さえつけられた。 彼はフンと鼻を鳴らし、視線を前に戻して運転に集中した。これ以上話しかけても無駄だと思った。 小夜は再び目を閉じた。頭の中で、林家に戻った後の状況を素早く整理する。 父の冷酷さ。母の偽善。そして林華蓮の涙。 厳しい戦いになるだろう。 だが、五年の月日は彼女に戦い方を教えるには十分だった。もう為すがままにされる少女ではない。 車は見慣れた角を曲がり、林家のある高級住宅街が遠くに見えてきた。 小夜の心臓は速まるどころか、むしろ落ち着いていく。 これから戦場に向かう兵士のように、彼女は冷静に自分の鎧と武器を点検していた。 彼女の鎧は無関心。彼女の武器は真実。 陸翔は林家の邸宅の自動ゲートを抜け、正面玄関前の噴水の横に車を停めた。 シートベルトを外し、彼は後部座席の小夜に言った。 「降りろ。さっき言ったことを忘れるな。大人しくしてろ」 小夜は彼の警告を無視して、自分でドアを開けた。五年ぶりに見る豪邸の前に立つ。 建物は相変わらず壮麗だったが、彼女は骨身に染みるような寒気しか感じなかった。 彼女は深く息を吸い込むと、左足に走る微かな痛みを無視して、重厚な玄関ドアに向かって自ら歩き出した。 その痩せた、しかし真っ直ぐな背中を、陸翔は複雑な表情で見つめながら後に続いた。
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