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チャプター 3 第3話 奇妙な男
けれど、彼女を引っ立てている黒い装束の男2人は、眉ひとつ動かさなかった。
腕をつかむ手は鉄の枷のようにびくともせず、逆らう余地などまるでない。
邵元元(シャオ・ユエンユエン)は腹立ちをこらえながら、階段の上へと連れて行かれた。
上るにつれて、どうにも嫌な予感が募っていく。
見覚えのある部屋の前で足が止まったとき、彼女は唖然とした。
ーーえっ? ここって、あのおかしな男の部屋じゃない?
考えを巡らせているうちに扉が開かれた。四角い大卓のそばに端然と座る黒衣の男を、邵元元はひと目で見分けた。眉目の涼やかな、この世の者とは思えないほどの美貌だ。
「あなた!?」
宋越卿(ソン・ユエチン)はわずかに目を上げ、黒い岩のように冷たく沈んだ瞳で、邵元元を無関心に見やった。
彼は前置きもなくあの処方を取り出した。澄んだ、よく響く声だった。
「これを書いたのは、お前か?」
邵元元はひそかに胸をなで下ろした。妓楼の女将に連れ戻されて客を取らされるのでなければ、それでいい。
彼女は悪びれずに認めた。「ええ、私が書いたわ!」
「さっきのあなたがどれだけ危なかったか、分かってないでしょう。私がちょうど居合わせて、鍼で体の毒を抑えてあげなかったら、今ごろ自分で自分を打ち殺していたかもしれないのよ」
宋越卿はかすかに目を細めた。その瞳に暗い光がよぎる。「毒?」
5年前のあの戦で深手を負って以来、目覚めた彼はときおり狂乱し、人も自分も傷つけるようになった。医者たちは口をそろえて、頭を傷めたせいだと言った。
この数年、名医を探し歩いてきたが何の手がかりもなく、返ってくる答えはどれも同じだった。
頭を傷めたのだから、気長に養生するしかない。いつ治るかは誰にも分からない、と。
実は毒なのだと言われたのは、これが初めてだった。
その表情を見て、邵元元も少し面食らった。「自分が毒を盛られてるって、知らなかったの?」
少し考えて、すぐに合点がいった。「まあ、無理もないわね。この毒はとても珍しいの。千年に一度出会えるかどうかという弑魂花の種から作った、精神を蝕む毒よ。口にした者は、はじめのうちは3か月に一度発作が起きて、そのたびに狂ったように暴れ、自分か周りの誰かを傷つける。 そのうち毒が五臓に回ると発作の間隔がどんどん縮まって、ひと月に2、3度なんてこともありうる。しかも性格まで変わって、どんどん怒りっぽくなり、最後には完全に自分を抑えられなくなる。いつ心が壊れて急死してもおかしくないわ」
宋越卿は胸を突かれた。
今の自分の有様と、寸分違わない!
自分の身で知っていなければ、とても信じなかっただろう。この女、確かにそれなりの腕がある。
そばに控えていた玄冥(シュエンミン)はさらに顔色を変え、急き込んで尋ねた。「では、その毒は解けるのか?」
邵元元はちらりと目を動かし、胸の内で算段した。この男、見たところ身分は低くなさそうだ。自分はこの体に来たばかりで、妾腹の妹とその母親が虎視眈々と狙っている。簡単に逃げおおせるとは思えない。
それなら、この男を利用して抜け出せばいい……
彼女は軽く咳払いをして、落ち着き払って言った。「解けることは解けるわ。ただし、こちらにも条件がある」
宋越卿は凛々しい眉をひそめ、冷えた声で言った。「俺に条件を突きつけてきたのは、お前が初めてだ」
邵元元はにこりと笑った。「それは光栄ね」
この小娘がここまで肝が据わっていて、本当に自分を恐れていないとは、宋越卿にも意外だった。
「俺の秘密を知ったんだ。殺されるとは思わないのか?」
邵元元は肩をすくめた。「私を殺したら、もう誰もあなたの毒を解けなくなる。あなたも死ぬことになるのよ。そんな大損の取引、あなたがするはずないわ」
宋越卿は小さく鼻を鳴らし、素っ気なく言った。「世に名手や奇才はいくらでもいる。医術の心得があるのは、お前ひとりではない」
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