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―― 富田真梨絵 ―― 翌朝、私は父の執務室を訪れた。父は驚いた顔で私を見た。私がこんなにも早く、彼の元を訪れることは珍しかったからだ。

「父様、お話があります」私の声は、これまでになく冷たく響いた。

父は書類から目を離し、私をまっすぐに見つめた。「どうした、真梨絵。何かあったのか?」

私は深呼吸し、決意を固めた。「私、特待生たちとの婚約を白紙に戻します」

父の顔色が変わった。「何だと? 真梨絵、一体どういうことだ?」父は理解できないといった表情をした。

「彼らとは、もう結婚できません」私は感情を抑え、冷静に答えた。

父は厳しい目つきで私を見た。「これまでずっと誠也を愛していると言っていたではないか。何か彼と揉め事でもあったのか?」

私は首を横に振った。「いいえ、揉め事ではありません。ただ、もう無理なのです」

父はため息をついた。「彼らは我が富田財閥の将来を担う人材として、幼い頃から訓練を受けてきた。そして、お前だけが彼らを選ぶ立場にある。今になって婚約を白紙に戻すなど、常識では考えられない」

「わかっています」私の声は震えていたが、決意は揺るがなかった。「しかし、私にはもう彼らを夫として見ることはできません」

父は私の目を見つめ、何かを探るようにじっと観察した。彼の目は、私に嘘がないか確かめようとしているようだった。

「では、お前は誰と結婚したいのだ?」父は尋ねた。

私は迷わず答えた。「緒方和樹様と結婚します」

父の眉がぴくりと動いた。緒方和樹は、名門緒方財閥の御曹司で、私の幼馴染だった。彼は幼い頃から私を一途に愛してくれていた。私が誠也に夢中になっている間も、彼はいつも私の傍で、静かに私を見守ってくれていた。

「緒方家の御曹司か。確かに彼ならば申し分ないが、お前はこれまで彼を友人としてしか見ていなかったはずだ」父はまだ納得していないようだった。

「ええ、しかし、今なら彼の価値がわかります」私は父の目をまっすぐに見てそう言った。

父はさらに問い詰めた。「何か、彼らの間で決定的なことがあったのか? 彼らがお前を傷つけたのか?」

私はその質問に答えなかった。ただ、深く頭を下げた。「理由については、今はまだお話できません。ですが、私の決意は固いです」

父はしばらく沈黙した後、大きく息を吐いた。「わかった。お前の意志を尊重しよう。だが、彼らへの説明は、私から行う」

私は感謝の気持ちでいっぱいになった。父は、私が抱える秘密に深く踏み込まず、私の決断を受け入れてくれたのだ。父の深い愛情を感じ、私の心は少し救われた。

執務室を出て、私は廊下を歩いた。私の耳には、数時間前の彼らの嘲笑がまだ響いていた。彼らは私を愚かだと馬鹿にしていた。しかし、彼らが知る由もない。彼らの嘲笑は、私の心を打ち砕いたのではなく、新たな私を目覚めさせたのだと。

私は緒方和樹を愛していたわけではなかった。彼への感情は、せいぜい信頼できる友人、というものだった。しかし、今の私には、彼を夫として選ぶ以外の選択肢はなかった。彼ならば、私を裏切ることはないだろう。私を傷つけることもないだろう。彼ならば、私を何よりも大切にしてくれるだろう。

私の心は、冷たい決意に満ちていた。私を裏切った者たちには、相応の報いを受けさせる。そして、私を愛し、守ってくれる者には、私のすべてを捧げる。これが、新たな富田真梨江の生き方だった。

その夜、私は注文していた隠しカメラを受け取った。一つ一つ手に取り、設置場所を念入りに確認する。これは私の復讐の武器だ。彼らが私を嘲笑ったあの場所で、今度は私が彼らの真実を暴く。 静かに、確実に。

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読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全28章

  1. 第1章第1章
  2. 第2章第2章
  3. 第3章第3章

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