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第一総合病院の最上階、関係者以外立ち入り禁止のVIPフロア。

そこには消毒液の匂いと、新垣秀臣が放つ濃密な威圧感が立ち込めていた。

廊下の向こうから、コツコツと急ぎ足の靴音が響いてくる。

秘書の杉山雅之が、封のされた黒いファイルを両手で捧げ持ち、秀臣の前で深々と頭を下げた。

「総帥、超特急でのDNA鑑定結果が出ました」

秀臣は無言でファイルをもぎ取るように奪い取った。

乾燥した指先で封を破り、最後の結論欄へと鋭い視線を叩きつける。

「検体A(新垣秀臣)と検体B(女児)の間に、99.99パーセントの確率で祖父と孫の血縁関係を認める。また、保存されている新垣啓介氏の生体データとの父子関係確率は99.999パーセント――」

「……啓介の、娘」

秀臣の喉から、かすれた声が漏れた。

長男の一誠は幼くして海で落命し、次男の啓介は昏睡状態のまま目覚めない。新垣の血脈はここで途絶えてしまうのかと、絶望の淵に立たされていた老当主の胸に、突如として眩い希望の光が差し込んだ瞬間だった。

「神仏は、まだ新垣を見捨ててはおられなかったか……!」

秀臣は杖を床に強く突き立て、背後の杉山を鋭く見据えた。

「このフロアを完全に封鎖しろ。私設警備隊を配置し、許可のない者は院長であっても射殺して構わん。それから――仁翔に電話を繋げ。今すぐにだ!」

その頃、銀座の最高級フレンチレストランのVIP個室。

新垣家の三男であり、芸能事務所のオーナー兼投資家として夜の街を謳歌する新垣仁翔は、クリスタルグラスを指先で弄んでいた。

「仁翔さん、今度の主演映画の件、本当にプロデューサーに口を利いてくれたの?」

向かいに座る清純派女優の戸塚美穂が、潤んだ瞳で上目遣いに見つめてくる。世間では「高嶺の花」「純潔のミューズ」ともてはやされている美穂だが、仁翔の前では計算し尽くされた甘え声を出していた。

仁翔はかつて、地方の静養先で重病に倒れた際に自分を看病してくれた「命の恩人」として美穂を信じ込み、莫大な資金とコネを注ぎ込んで彼女をトップスターへと押し上げていた。

「ああ、お前がやりたいなら好きにしろよ。俺の金でどうとでもなる」

仁翔が退屈そうに答えた瞬間、テーブルの上で私用のスマートフォンがけたたましく震え始めた。

画面には「親父」の二文字が表示されている。

「……チッ、なんだよ、こんな時間に」

通話ボタンをスワイプして耳に当てた瞬間、受話器の向こうから鼓膜を破らんばかりの怒声が響いた。

『仁翔! 今すぐ第一病院の特別集中治療室へ来い! 一秒でも遅れたら貴様のカードをすべて凍結し、新垣の籍から叩き出すぞ!』

「は?! 親父、何言って――」

ツー、ツー、と無機質な切断音が響く。

仁翔の顔から、ふざけた色が消え失せた。あの父親がここまで取り乱すことなど、啓介が倒れた夜以来、一度もない。

「仁翔さん? どうしたの、デザートはまだ――」

「悪い、美穂。緊急事態だ。金は置いていくから、一人で食って帰れ」

仁翔は財布から無造作に数十万の札束を抜き取ってテーブルに放り投げると、上着を掴んで立ち上がった。

「待ってよ! 私を置いていくの?! 私のこと、もうどうでもいいの?!」

美穂が立ち上がり、すがりつくように腕を取ろうとするが、仁翔はその手を冷たく振り払った。

「今は、そんなくだらない我儘に付き合ってる場合じゃないんだよ」

背後で美穂が屈辱に顔を歪めるのも意に介さず、仁翔は夜の街へ飛び出し、愛車のフェラーリのアクセルを床まで踏み込んだ。

二十分後。

第一総合病院の最上階に駆け込んだ仁翔は、廊下に立ち並ぶ黒服の武装警備員たちが放つ異様な空気に、思わず息をのんだ。

「親父! 何があった?! 兄貴の容態が急変したのか?!」

秀臣は何も言わず、テーブルの上のDNA鑑定書を仁翔の胸元へ叩きつけた。

「読め」

仁翔は眉をひそめながら紙面に目を落とし、次の瞬間、絶句した。

「な……99.99パーセント……?! 啓介兄貴の子供?! 嘘だろ、兄貴はずっと女っ気配ゼロの潔癖症だったはずだぞ!」

「これが嘘に見えるか」

秀臣が指差したトレイの上には、血のついた守り勾玉が置かれていた。

仁翔はあっけにとられ、言葉を失う。

その時、手術室の扉が重々しく開き、全身汗まみれの執刀医がよろめきながら出てきた。その表情は、この世の終わりのように暗い。

「総帥……全力を尽くしましたが……多臓器不全によるショック状態です。心停止から三分が経過しました……ご臨終です」

「……何だと?」

仁翔の頭の中で、何かが弾けた。

気がつけば医師の胸倉を掴み上げ、壁に叩きつけていた。

「ふざけるな! 俺の姪っ子だぞ! やっと見つかった兄貴の娘なんだよ! 生き返らせろ! 死なせてたまるかッ!」

現在読めるのはここまでです。

読み進めると物語が続きます。

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章一覧

全67章

  1. 第1章第1章 悪鬼の足音八階の窓辺
  2. 第2章第2章 金色の光総帥の咆哮
  3. 第3章第3章 奇跡の血統二男の緊急招集

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