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第3章 イヤリングがきっかけとなった追跡調査
鷹司グループの総帥執務室。
鷹司暁は、巨大なデスクの後ろで、指の間に青いアイリスのイヤリングを挟み、深く物思いに沈んでいた。
昨夜の記憶が、彼の脳裏で忌まわしく蘇る。来客との面会中に体調を崩してホテルに部屋を取ったが、宿泊情報が漏洩したため、急遽8801号室へと変更した。薬を飲んで深い眠りに落ちたはずだったが、そこで彼は、異常なほど生々しい甘美な夢を見た。五年前、顔もはっきりと見えないまま彼を翻弄し、心を乱したあの見知らぬ少女の夢だ。
そして寝返りを打った時、彼の前には、枕元のナイトテーブルに残されていた片方だけのイヤリングと、一度握りつぶされ、そして再び広げられた「お疲れ様」とだけ書かれたふざけたメモが置かれている。
自分を慰み者にしたかのようなその振る舞いに、暁の胸中で激しい屈辱と怒りが燃え上がった。
薄い唇が、固く一文字に結ばれていた。
内線電話のボタンを押し、氷のように冷たい声で命じる。
「入れ」
恭しく入室した秘書は、主から発せられる低い気圧を感じ、息を殺した。
暁は、メモを秘書の方へ滑らせる。
「昨夜、俺の部屋に忍び込んだ女を全力で探し出せ」
そして、彼は付け加えた。
「五年前のような不測の事態を、二度と繰り返すわけにはいかない。地の果てまで追いかけてでも、必ず見つけ出せ」
「は、はい鷹司総帥」
秘書は内心の動揺を押し殺し、深く頭を下げた。
その頃、小林静は、吉田家へと戻っていた。
シャワーを浴び終えた彼女は、ベランダに出てタバコに火をつけた。紫煙が空に溶けていくのを見つめながら、どうしようもない感傷が胸を締め付ける。
彼女はこの吉田家で十九年間生活してきた。しかし五年前、身の上が暴露され、養父母が実の娘を探し出してからは、この家は彼女にとって何の居場所もない空間へと変わってしまった。
本来なら、帰国してまでここに住むつもりなどなかった。ただ一人、自分を心から愛してくれた祖母の存在があったからこそ、彼女のそばに寄り添うために戻ってきたのだ。
その時、静のスマートフォンが鳴った。知らない番号だった。
電話に出ると、相手は聖英幼稚園の責任者で、非常に丁寧な口調だった。
「もしもし、小林先生でいらっしゃいますか?」
「はい、小林です」
静は淡々と応じた。
「実は園内で、非常に対応が難しい児童の心理問題が発生しておりまして……。心理学の専門家である先生に、ぜひ入職していただき、お力添えをお願いしたいのです」
聖英幼稚園。横浜で最も格式の高い教育機関だ。静は少し考えた後、静かに答えた。
「分かりました。今日の午後二時に伺います。ただし、特別な待遇は一切不要です。目立たないように入職させてください」
電話の向こうで、責任者が安堵したように何度も礼を言った。
通話を終えた静は、一階へと降りていった。
養母と実の妹は旅行に出かけており、顔を合わせることはなかった。ダイニングには、祖母が用意してくれた食事が並べられており、静は祖母と二人きりで食卓を囲んだ。
祖母は満面の笑みを浮かべ、期待に満ちた様子で自ら口を開いた。
「静、昨夜はどうだった? 夫の近衛悠真さんとは、ちゃんとお会いできたの?」
祖母の言葉には、二人がこれから夫婦として仲良く暮らしていってほしいという、切なる願いが込められていた。
静はそんな祖母の優しい瞳を見つめ返し、静かにコップの水を飲み干した。
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