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チャプター 3 魔法使いも車に乗るの?
アローラの視点
叔母のお客さんだろうか?
私は顔を赤らめて彼の胸から身を起こした。こんなにも美しく気品のある男性の前で、これほどみっともない姿をさらしてしまったことが、たまらなく恥ずかしかった。
一方、叔母やオリアナたちも呆気にとられていた。先ほどまでの横柄な態度は見る影もなく、卑屈に腰を折って尋ねる。「あの、どちら様でいらっしゃいましょうか……」
男性は薄い唇をわずかに開き、低く艶のある声で答えた。「コンスタンティン・ランスロット」
その名前に全員が凍りつき、叔母に至っては興奮で全身を震わせた。
彼は西半球でも指折りの財閥、ランスロット家の若き跡取りだ。一目会えるだけでも光栄だと、誰もが憧れる存在だった。
それなのに今、そんな大物がわざわざこの家を訪ねてきたのだ!
オリアナがコンスタンティン・ランスロットの美しい顔にうっとりと見惚れているのを眺めながら、私はふと、あの合格通知のことを思い出した……。
記憶違いでなければ、私の案内役の名前も「コンスタンティン」だったはずだ。
まさか、この財閥の御曹司が私を魔法学院へ案内してくれるのだろうか?
うろたえた叔母は、私を引きずり退かそうと手を伸ばしてきた。「この役立たず、いつまでそこに突っ立っているんだい? 大切なお客様のお目障りだよ、さっさと台所へ行って紅茶を淹れてきな!」
そしてコンスタンティンに向かって媚びるような笑みを浮かべた。「コンスタンティン様、うちの主人に御用でしょうか? 以前、あなたの支社の責任者の方にお目にかかりたいと予約を入れておりましたの。まさかコンスタンティン様が直々にお越しくださるなんて、今すぐ主人を……」
だが次の瞬間、コンスタンティンは私を背後に庇った。
「俺が訪ねてきたのはアローラだ」
淡々と告げたその言葉は、叔母にとって平手打ちも同然だった。「お前の夫ごときに、俺と会う資格はない」
全員が呆然と立ち尽くした。うっすらと予想していた私ですら、コンスタンティンが本当に自分を迎えに来たなんて信じられなかった!
オリアナは体裁も構わず甲高い声を上げた。「コンスタンティン様、きっと何かの間違いですわ!アローラみたいな下等な人間が、そんな……」
最後まで言い切る前に、彼女は突然目に見えない手で首を絞められたかのように息を詰まらせ、顔を青紫に変えた。
「耳障りだ」
コンスタンティンは冷ややかにそう言うと、私の方へ視線を向けた。「必要な物を持って、俺と学院へ行くぞ」
私は服の裾をぎゅっと握りしめ、一言も発することができなかった。
本当にあの魔法学院へ行くことになるなんて……。
けれど、この世界に本当に魔法など存在するのだろうか?
魔法を学んだとして、卒業したあとは何をするのだろう?
魔法界の就職率はどのくらいなのだろうか? 仕事が見つからないなんてことはないだろうか?
私がまだ反応できずにいると、傍らにいたチャールズがたまらず口を挟んだ!
「何が入学だ? お、お前はきっと詐欺師だな!」
彼はコンスタンティンの前へ飛び出すと、虚勢を張って指を突きつけた。「アローラが行くのはコミュニティ・カレッジだぞ。わざわざ迎えが来るはずがないだろう!」
コンスタンティンは突きつけられた指に冷たい目を向けた。「跪け」
チャールズはその言葉を鼻で笑ってさらにわめき散らそうとしたが、次の瞬間、彼の両膝が意思に反して激しく 地面に叩きつけられた!
間違いなく足の骨が折れたはずだ。玄関先のタイルにひびが入るほどの衝撃で、彼は足を抱えて地面に転がり、悪霊でも見たかのように悲鳴を上げた。「な、何をした!お前は悪魔か!」
その恐ろしく不可解な力に私は息を呑み、叔母も恐怖でガタガタと震えていた。
それでも恐怖より強欲さが勝ったのか、叔母はまだ私を引き止めようとした。「アローラ!行くんじゃないよ!あんたにはまだうちの養育費の借りが残ってるんだからね!」
「ランスロットさん、この子を連れていくなら、代わりにそのお金を払ってもらいますよ。さもないと警察を呼ぶからね!」
コンスタンティンが足を止めた。
私はとっさに止めようとした。「あの、彼女は嘘をついています。この何年もずっと私を虐待してきて、私は……」
ところがコンスタンティンはわずかに頷いた。「いいだろう、お前が受け止めきれるならな」
彼が手を上げて指を鳴らすと、なんとリビングにまばゆい黄金の塊がいくつも現れた。
金塊の数は目に見える速さで増え続け、みるみるうちに小さな山を築いていく!
叔母は欲に目をくらませて飛びつき、金塊を1つ掴んで噛みついた。「なんてこと、本物の金だわ、こんなにたくさんの金が!」
だが金塊は際限なく溢れ出し、あっという間に屋敷中を埋め尽くして、叔母の逃げ場を奪っていった。
ようやく恐怖を覚えた叔母は、泣き叫びながらコンスタンティンに命乞いを始めた。「い、いらない、もうたくさんよ!降ろしてちょうだい!足が折れちゃう!」
コンスタンティンは一顧だにせず、再び私に目を向けた。「あまり時間がない。俺と来るか?」
私はしばらく呆然としたままで、心臓が口から飛び出しそうだった。
これが魔法なのだろうか? すごすぎる!
そして私も、これから魔法使いになるのだ……。
私も彼のようになれるのだろうか?
不安がないわけではなかった。なにしろ迎えに来たのは素性の知れない男性で、これから関わるのは科学では説明のつかない魔法かもしれないのだ。
その学院へ行って、何が待ち受けているのかすらわからない。
けれど、もしここで断れば、あのコミュニティ・カレッジに通い、平凡で味気ない一生を送ることになる。これからもずっとオリアナたち一家に支配されたままで。
ほんの一瞬迷っただけで、私は決心を固め、必要な身分証と成績証明書を持って彼の後を追った。
彼が踵を返した瞬間、屋敷を押し潰して廃墟に変えた金の山も忽然と消え去り、あとには崩れ落ちた壁と気を失った3人だけが残された。
空飛ぶ箒や瞬間移動といった、魔法らしい派手な移動手段を使うのかと思っていたが、意外なことに、家の外には豪華なロールス・ロイスが停まっていた。
コンスタンティンが後部座席のドアを開けて初めて、私はためらいながらも彼に続いた。
車が走り出すと、私はどうしても気になって尋ねてみた。「魔法使いも車に乗るんですか?」
彼はわずかに眉をひそめた。どうやら私の質問が少し間抜けに思えたらしい。
まあ、考えてみれば当然だ。ここは人間の社会なのだから、空に突然箒に乗った魔法使いが現れたら、私だって警察に通報したくなるだろう。
コンスタンティンは私と話す気がなさそうだったので、それ以上は話しかけなかった。
車は港まで走った。そのまま船に乗るのかと思いきや、彼が私を連れて向かったのは、使われなくなった貨物港だった。
鉄の扉をくぐり抜けた瞬間、空の色まで薄暗くなったような気がした。灰色にけぶる海面には暗い潮流がうねっており、思わず恐怖が込み上げてくる。
こんな場所に船が来るとしても、せいぜい密航者を運ぶ闇船くらいだろう。学院へ向かうクルーズ船なんかが来るはずがない。
胸がざわつき、無意識に服の裾を握りしめた。コンスタンティンに尋ねようとしたものの、その冷たく硬い横顔を見ると、声をかける勇気が出なかった。
どれくらい経っただろうか、突然海面が揺れ動いた。
海の真ん中に巨大な渦が現れ、激しい風と高波が荒れ狂っているのに、遠くの港は嘘のように穏やかなままだ。
目の前の渦の中から、豪華な3層構造のクルーズ船が姿を現し、船内からは優美な交響曲が微かに聴こえてきた。
呆然と見つめる私の目の前で、巨大な船が静かに停泊した。
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